日本植物病理学会報
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原著
Xanthomonas arboricola pv. juglandis WB系統によるクルミ黒斑細菌病のわが国における初発生
澤田 宏之横澤 志織上松 寛西口 徹近藤 賢一
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2017 年 83 巻 1 号 p. 10-21

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抄録

長野県内に所在するクルミ(Juglans regia)の産地では,2014年以降,葉や花穂,果実などに黒褐色の斑点症状を生じる病害が多発し,問題となっている.その罹病果実からは,やや中高で湿光を帯びた黄色集落を形成する細菌が分離された.分離菌をクルミに接種すると原病徴が再現され,そこからは接種菌が再分離できた.本菌はグラム陰性,好気性で1本の極鞭毛を有する桿菌であり,その主要な表現形質,16S rRNA遺伝子やqumAを標的としたPCR検定,および7つの必須遺伝子(atpDdnaKefpfyuAglnAgyrBおよびrpoD)を用いたmultilocus sequence analysis(MLSA)の結果に基づき,Xanthomonas arboricola Vauterin, Hoste, Kersters and Swings 1995と同定できた.また,API 20NEによる表現形質の検査,PCRに基づくタイプIIIエフェクター(T3E)の遺伝子構成の解析,MLSA解析,および接種試験の結果を精査すると,本菌はX. arboricola pv. juglandisXaj)に相当することが明らかとなった.なお,Xajには2つの系統〔walnut blight(WB)系統とvertical oozing canker(VOC)系統〕が存在するが,長野県の発生状況は前者の場合と一致していた.また,T3E遺伝子構成に関しても,本菌からWB系統に特異的なxopAHはPCR検出できるのに対し,VOC系統特異的なxopBの増幅は認められなかった.さらに,MLSA系統樹においても,本菌はWB系統とクラスターを組むことが確認できた.以上より,本菌はXajのWB系統に相当すると判断した.Xajによって引き起こされるwalnut blightが日本国内で見出されたのは本研究が初めてであることから,本病の病名として,その発生状況や病徴の実態に即した「クルミ黒斑細菌病」を適用することを提案したい.なお,WB系統は遺伝的に多様であるとされているが,本研究に供試した分離菌は均一性が高いことが確認できた.このことは,WB系統の中のある1つの菌系が,長野県内の各地へと分布を拡大するような経緯があったために,現在のような発生状況がもたらされた可能性を示している.

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© 2017 日本植物病理学会
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