2023 年 89 巻 2 号 p. 67-76
種子混合され株単位で移植栽培されるイネにおけるイネいもち病を対象としたマルチラインでは,株毎の構成系統の割合は確率的に決定され株毎に異なる.また,株内では構成個体に空間構造があるので,感受性個体間でも発病程度に差異が認められることがある.これらがいもち病菌のレース頻度の変化に与える影響を,葉いもちが伝染勾配に従い菌が拡散しながら発病進展する格子モデルを作成して解析した.種々の感受性系統の割合の条件で演算した結果,両要因の影響を考慮した場合,しない場合より病勢進展が増し,その影響は感受性系統の割合が低い条件下ほど大きかった.これは,病原性の幅が広いレースの蔓延が両要因を考慮しない場合よりも遅くなる可能性があることを示唆している.マルチライン栽培条件下でのレース頻度の推移,特に新たに病原性を獲得したレースの頻度の推移を予測するには,種子混合の影響をモデルに反映させる必要がある.