日本植物病理学会報
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普通地水田に於ける硫酸還元菌による水稻苗の被害に就て
野瀬 久義
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1940 年 10 巻 2-3 号 p. 192-202

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抄録

1. 著者は嚢に干拓地の水田土壤に於て硫酸還元菌Microspira desulfuricans (BEIJERINCK) van DELDENの旺盛なる繁殖により惹起さるる水稻幼苗の被害に關して報告したるが,本報告にはこれと同樣なる被害現象が普通地水田土壌に於ても存在せる事實を述べたるものなり。
2. 被害發生の土壌は稍々粘質にして,弱鹽基性を呈し,有機質に富める排水不良なる低濕土壌なり。次に被害苗の病徴は多くは發芽後鞘葉の1~3cmに伸長せるものに現はれ,其の鞘葉は纖弱にして彎曲し殆んど葉緑を成生せず,本葉の發達は極めて微弱にして開析することなく枯死,腐敗す。又其の根は生育を抑制せられ,枯死し,黒變す。尚斯かる土壌に於ては挿秧後の水稻にも生育障害を發生せり。
3. 被害幼苗よりは如何なる病原菌をも分離し得ざりき。
4. 被害苗代土壌には硫酸還元作用極めて旺盛にして,これより細菌の分離を行ふ時は常に硫酸還元菌及び其の隨伴菌を分離し得られる。而してこれ等の細菌は, Microspira desulfuricans (BEIJERINCK) van DELDEN及びPseudomonas sp.に屬し,干拓地の被害苗代土壌に於ける細菌と全く同一種に屬せるを認めたり。
5. 當場の試驗圃場より採取せる水田土壌を殺菌し,これに被害苗代土壌を加へて種籾を播種すれば,自然状態にて發生せる病徴と酷似せる被害苗を生じ,其の土壌は黒化して,被害苗代土壌と同樣なる状態を呈せり。而して斯かる被害の状態は被害苗代土壌及び嚢に著者の報告したる干拓地の被害苗代土壌より分離せる硫酸還元菌及び其の隨伴菌を混合接種したる場合に現はるゝ被害の状態と異なる所なし。
6. これを要するに本被害は硫酸還元菌, Microspira desulfuricans (BEIJERINCK) van DELDENの繁殖によるものにして,干拓地苗代に於ける被害現象と同樣なる原因によるものと認めらる。

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