日本植物病理学会報
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馬鈴薯疫病抵抗性の細胞生理学的研究
II. 寄主細胞の変化と侵入菌糸の生死の関係
富山 宏平
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1955 年 19 巻 3-4 号 p. 149-154

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抄録
強抵抗性馬鈴薯系統41089-8の中肋表皮細胞に Phytophthora infestans を接種し, その侵入後の状況を観察した。侵入菌糸の生死も寄主細胞の場合と同じく, 中性赤によつて判別し得る。そしてその脱色する迄の時間を生存期間と考えることができる。侵入菌糸は寄主細胞の死後も生きている。まだ死寄主細胞の内容がブラウン運動をしている状態 (sol) では菌糸は伸長する。然し褐変が進みブラウン運動が停止すると (gel の状態), 細胞内菌糸はその半数は生きているが伸長できない。この場合菌糸の一部が褐変しない細胞に接していると, そちらの方だけ伸長する場合のあることが認められた。即ちかかる菌糸は機械的に封じ込められているだけで死んではいないと認められる。接種後約20時間後に観察すると, 菌はすべて死んでいるように見えた。
検鏡用切片を連続観察すると, 褐変は常にその観察開始時期の状態以上には進まず且つ細胞内菌糸も長期間にわたつて生きる。このような切片に酸素を補給する目的で切片をシヤーレ内の純粋寒天 (1%) 上に並べ, 滬紙で水を吸いとつて置いても同様に褐変は進行せず且つ細胞内菌糸の速やかな死も起らない。これらのすべての場合に切片の侵害部周辺組織は観察開始後1~2日に亘つて生きていることが認められた。故に検鏡用切片で褐変が進まず且つ菌が死なない理由は, 酸素の供給不足のみではなく, 切片にした操作による周辺組織の機能障害が重要であるように思われる。病竈部に於ける褐変の過程は相当長時間に亘つて連続的に進行し且つ周辺組織の活溌な生機が関与しているように推測される。
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