1. タマネギ鱗茎の表皮片を長時日間アルコールに浸漬, 水洗後に水に浮かせて, その上でオオムギ白渋病菌の分生胞子を発芽させると, 発芽管は1週間以上の寿命を保つのに, オオムギ生葉に接種して, カルスが大きく形成される場合には, 発芽管は接種後1~2日で死ぬ。この場合発芽管を殺すのはカルスそのものではなく, 侵入孔近辺の寄主細胞内部におこる異常生理によつて生じた成分によると考えられる。
2. 分生胞子接種後数日目の若い菌叢部に於て, 生きている寄主細胞の内部に, 生きている吸器と死んだ未完成の吸器とが含まれることがある。
3. 古い菌叢部に於ては, 長形の表皮細胞に数十の吸器が重なり合うように形成されており, 多数の生きている吸器にまじつて, 死んでいる吸器が含まれることが稀でない。
4. 白渋病の菌叢部の寄主細胞は, 発病していない部分の細胞よりも寿命が長い。死んだ部分にとり囲まれた菌叢部の表皮細胞は瀕死の状態になつていたり, 死んでいるものもあるが, その中に生きている吸器が含まれることがある。寄主細胞が非常に弱つて来ても, 吸器が先んじて死ぬのではなく, 少くとも寄主細胞が死ぬまでは, その中にある吸器は寿命を保つということができる。
5. オオムギ白渋病菌の分生胞子は寄主植物体上で発芽管を生じてから, 吸器がある程度に生育するまで菌糸を伸出しないし, 又1. でのべたタマネギ表皮片を水に浮かせて発芽床にした場合にも同様に発芽管だけをつくるに過ぎない。タマネギ表皮片を葡萄糖液又は酵母抽出液加用培養液に浮かせた場合には, 吸器の形成はなしに, ある程度の長さの菌糸を伸出する。
6. オオムギ白渋病菌は極めて稀にではあるが, ソバの表皮細胞に, 指状突起が現われ始める程度の吸器をつくることがある。しかしこの吸器による養分吸収ができないためか, 発芽管から菌糸は伸出しない。
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