抄録
抵抗性遺伝子R1をもつジャガイモ塊茎組織を厚さ0.5mmのスライスにして,非親和性疫病菌レースの濃厚な胞子液を接種すると,その本来の抵抗性を失なつてしまう(低濃度胞子液では抵抗性を失わない)。この実験結果から感染部の隣接組織でフェノール化合物その他の物質が生産されて,それが感染部へ転送されて疫病菌の進展阻止に役立つものと推定した。(前報告)
もしこの推定が真実ならば抵抗性を失なつた薄片濃厚感染スライスは外部からフェノール化合物を与えることによつてその抵抗性を回復することが期待される。この点を確めるためにここに報告する諸実験を行なつた。実験結果は上記の推定を証明し,かつこれらのフェノール類は壊死組織でのみ強い菌進展阻止効果を示し,親和性レースを接種した共生的罹病組織では阻止効果をほとんど示さなかつた。フェノール化合物の分析結果は非感染ならびに感染組織でその含量が菌進展阻止に必要とされる濃度よりはるかに低いことを示した。これらの結果は前報でのべた菌の進展を阻止するために約10∼15細胞層に及ぶ隣接健全組織を必要とし,且つその組織でフェノールが生産されて被害部に沈着するものであろうという推定に一致するものである。感染細胞を囲む細胞群からそのo-ヂフェノールの一部が壊死細胞に移動沈着することによつて菌の進展を阻止し始める濃度に達し得ることを理論的に示した。
以上に述べたフェノール化合物という言葉はここでは健全植物に含まれる通常のフェノール化合物のみを示し,フェノール性ファイトアレキシンおよびクマリン化合物を含まない。ただしファイトアレキシン,クマリン化合物の抵抗性における意義を否定するものでは絶対にない。