日本植物病理学会報
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カモジグサ褐銹病菌Puccinia Agropyri ELL. et EV.の禾本科植物に於ける寄生性
永井 行夫
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1935 年 4 巻 3-4 号 p. 121-136

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抄録
(1) Puccinia Agropyri ELL. et Ev.の夏胞子は大麥,小麥,ライ麥,燕麥,カラスムギ,スヾメノチヤヒキ,イヌムギ,ハルガヤ,スヾメノカタビラナガハグサ,コバンサウの葉には氣孔より自由に侵入し又感染菌絲は例外なく吸器を挿入する。附着器の形成された孔邊細胞の過半數は枯死する。
(2) 大麥,ライ麥に於ては菌は正常なる發育を遂げ感染部に白色の病斑を生じ胞子堆が表皮細胞を破つて出て來る。解剖學的に之を觀察するに感染の進行と共に葉肉細胞は漸次衰弱するも表皮細胞及び柔組織鞘細胞は後に至る迄健全にしてこの中に形成された吸器も亦勢力旺盛である。多分菌は表皮細胞及柔組織鞘細胞より養分を攝取する事によつて多量の胞子を形成するのであらう。この夏胞子は大麥,ライ麥上に世代を重ねるも勢力衰へるが如き事なく又圃場試驗によるも幼苗は容易に感染を起す。
(3) イヌムギに於ては吸器は比較的正常なる發育をなし菌絲は組織内に伸長するが約10日を經過すると感染部の寄主細胞は吸器を挿入されて居ないもの迄も甚しく衰弱する爲菌が次々にこれ等の細胞に吸器を挿入しても充分な養分を攝取するを得ざるに至り遂に枯死す。
(4) 小麥,燕麥,カラスムギ,スヾメノチヤヒキに於ては感染初期には吸器も寄主細胞も急激な崩壞を起すが菌は尚之等の極めて初期の吸器により僅かに養分を得て漸次組織内に伸長してゆく。感染後1週間位を經過すると初期の吸器に比しやや肥大した吸器がみられるが結局は枯死し鞘により包まれる。此場合寄主細胞は初期の如き急激なる崩壞を起さなくなる。即ち吸器は寄主細胞中の有害物質の爲枯死し,枯死せる吸器を包んで鞘の形成された時は寄主細胞の崩壞は緩慢となる。
(5) ハルガヤ及びスヾメノカタビラでは細胞中の有害物質の作用劇しきため菌は吸器を挿入しても直ぐに殺されるから菌絲は養分を攝取する能はず從て殆ど伸長しない。
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