日本植物病理学会報
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ナシ黒斑病菌の宿主特異的作用機構 (V)
ナシ黒斑病感染初期における宿主特異的毒素の役割
尾谷 浩西村 正暘甲元 啓介矢野 清瀬野 武治
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1975 年 41 巻 5 号 p. 467-476

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抄録
ナシ黒斑病における感染成立機構の解析を目的として,宿主特異的毒素(AK-毒素)の感染初期に果たす役割について検討した。感受性(二十世紀),抵抗性(長十郎)ナシ葉に接種した黒斑病菌の胞子は,1時間で発芽を開始したが,その後の両ナシ葉上での菌の行動には,顕著な差は認められなかった。接種後8∼12時間頃に,病原性菌株の胞子を接種した感受性品種では,表皮細胞への微感染が観察された。病原性菌株の胞子は,発芽とともに徐々にAK-毒素を放出し,接種後4時間では,すでに1胞子当り約100個の宿主細胞を失活させうる毒素量に達した。AK-毒素は,感受性品種に細胞膜透過性の異常増大を引き起こすが,病原性菌株の胞子を接種した感受性品種では,接種後2∼6時間で第一の透過性の増大が,さらに,9時間頃(微感染時)からは,第二の急激な異常増大が認められた。病原性失活菌株の胞子にAK-毒素を加えて接種すると,病原性菌と同様な透過性の増大を引き起こし,宿主細胞における微感染も誘発された。Penicillium citrinumの代謝産物であるシトリニンは,ナシ品種に対してAK-毒素と類似の反応を示すが,シトリニンは,P. citrinum胞子の発芽時には分泌されず,胞子接種によるナシ葉への感染は認められなかった。
以上の結果から,ナシ黒斑病における感染成立の可否は,胞子発芽直後のAK-毒素によって決定され,AK-毒素による宿主細胞のわずかな細胞膜機能の破壊が,菌の侵入に導くものと推察された。
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