抄録
コムギ(品種フジミコムギ)の第一葉期にウイルス接種後第二葉におけるウイルス粒子形成を経時的に調べた。ウイルスは無病徴の2日目の材料でも観察されたが初期病徴を現わす4日目の材料で多くの初期形成像がみられた。ウイルスは初め篩部(伴細胞,柔細胞,篩管)や若い木部細胞に感染し,そこから柔組織に感染していくようにみえる。6, 8日目になると細胞質中のウイルスは増え,10, 20日目の材料では孔辺細胞を含む表皮細胞やほとんどの細胞に観察された。稀に核内や核膜間にもウイルス粒子の存在が認められた。細胞質にウイルス粒子が出現する時期には,細胞質が顆粒化した領域(‘viroplasm’)の形成が同時に観察された。ウイルス粒子は‘viroplasm’の内部よりは周辺の細胞質のERのcisternae内に形成される。‘viroplasm’中に未熟のウイルス粒子がみられることがあるが成熟粒子が散在して観察されることはない。稀に膜に包まれたウイルス粒子の集団が‘viroplasm’内にみられた。また感染細胞の細胞質に2枚の並行膜が巻いて出来たと思われる楕円体の膜様の封入体がみられた。ウイルス粒子はこの封入体の膜間にみられることが多い。感染葉の葉肉細胞の液胞中にトノプラスト膜が突出したと思われる膜がしばしば観察されるが,その種の膜間に存在するウイルス粒子はいずれも外膜のない‘裸の’ウイルス粒子であることが注目される。ウイルス接種後3∼4日目の若い葉の細胞質中に電子密度の高いコアをもつGolgi vesicles (50∼200nm)が多数観察された。vesiclesは,とくに維管束の各細胞や孔辺細胞で顕著であるが葉肉細胞でも健全葉に比して多い。Golgi vesiclesの増加と細胞伸長の抑制との関係について若干論議した。