カンキツかいよう病菌をゴムプレス法ならびに葉肉注射法でカンキツ葉に接種し,接種時の傷痍の影響を排除した場合の病原細菌の消長と接種部組織の変化を観察した。
1. ゴムプレス法で接種された細菌は気孔下腔近傍の海綿状組織の間隙に侵入した。20Cでは4∼5日,23Cでは3∼4日,25Cでは2∼3日後に気孔に近い2, 3層の細胞で細胞質の染色性の変化,仁の大型化,葉緑体の消失が起った。生菌数は同時期に増加し,1∼2日後から減少して病変細胞が増加した時期に著しく増加した。増加期からつぎの増加期までの期間は接種から宿主細胞の病変までの期間に等しく,抵抗性の異なる宿主でもほとんど差異がなかった。
2. 葉肉注射法で接種された細菌は海綿状組織の間隙に分布して直ちに増殖し,とくに接種源への栄養添加はこれを助長した。20Cでは4日目,海綿状組織の1, 2層の細胞でゴムプレス接種による場合と同様な病変が起り,その4∼5日後に病変細胞は4, 5層に増加した。
3. 約10層の細胞が病変し,肥大すると葉裏に水浸状小斑点が現われた。病変細胞は分裂せず,病原細菌は病変組織の細胞間隙に充満してそこから周辺部へ溢出した。
4. 以上の結果から,病原細菌は近接した宿主細胞に作用し,温度に関係した一定時間後に病変させ,その周囲で増殖すること,増殖した細菌は周囲へ溢出し,健全な細胞に作用して一定時間後に病変させ,そこでさらに増殖すること,この過程をくり返すことによって病変組織が拡大するものと考察された。
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