日本植物病理学会報
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本邦温暖地における牧草類糸状菌病の病原学的研究
西原 夏樹
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1978 年 44 巻 3 号 p. 231-234

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抄録

本邦の温暖地で牧草や飼料用青刈作物(これらを合せてここでは牧草類あるいは単に牧草と呼ぶこととする)が本格的に栽培されるようになったのは近年のことである。それに先行してその導入試験研究が昭和20年代の後半から盛んに行なわれるようになったが,その初期の段階ですでに病害の発生が問題となった。しかしその当時この地帯の牧草類については病害の研究がほとんど行なわれておらず,発生している発病害の種類すら全くといってよいほど分っていなかった。そこでそれを明らかにし,緊急防除策を講ずることを要請され,昭和30年にこの研究を始めることとなった。
本邦温暖地は,いわゆる西南暖地と呼ばれる地帯でも冬季は低温で,暖地型牧草(南方型牧草ともいう)は多年性のものでも多くは越冬困難で,越冬したものでも春の萌芽は遅い。一方,夏季は熱帯並みの暑さで,寒地型牧草(北方型牧草ともいう)の生育は停滞し,生産は極度に落ちる。このように温暖地では寒地型および暖地型のいずれの牧草も単独では年間の長期にわたって粗飼料を連続生産することはできず,したがってこれら二つの型の牧草類を栽培することが必要となる。
そのような事情から,温暖地においては,適する牧草を求めて導入試験される草種はもちろん,実用栽培される草種にも激しい変遷がみられ,それは現在も続いている。私は20余年にわたり,それに対応してきたため,取扱った草種は多数にわたり,手がけた病害の種類もまた多数にのぼる。導入される草種または品種の変遷があまりに急なため,研究の中途で病害の方が消滅したり,導入後日浅くいまだ研究未完結の病害も多い。
自らの設計に基づいた草種をとり上げ,あるいは特定の病原群について調査研究を行なったわけではないので,得られた成果は雑多な牧草類病害の羅列に過ぎないが,ここではそのうち糸状菌病の病原(因)学的研究の結果得られた若干の病害または病原菌を概説するとともに,この研究を行っている間に気付いた,イネ科牧草類の寒地型と暖地型との間にみられる発生病害への感受性の相違,さらにその相違と寄主イネ科植物の系統分類との関係について考察を加えてみることとしたい。

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