日本植物病理学会報
Online ISSN : 1882-0484
Print ISSN : 0031-9473
ISSN-L : 0031-9473
イネいもち病における抵抗反応に関する研究
I. 感染初期細胞の病態変化
富田 啓文山中 達
著者情報
ジャーナル フリー

1983 年 49 巻 4 号 p. 514-521

詳細
抄録

イネいもち病感染組織の3種の反応型(HR型,R型およびS型)における感染初期反応を明らかにするために剥離葉鞘接種法で感染細胞を経時的に光顕観察し,菌糸進展および細胞変質過程を比較検討した。
1. 葉鞘細胞への感染開始時期は,HR型,R型およびS型反応のいずれにおいても接種後12∼16時間であった。感染率は32時間以降はすべて95%以上となり差異は認められなかった。
2. 菌糸進展は,HR型反応ではほとんど認められなかった。S型反応では,菌糸が第1次感染細胞内に充満した後,隣接細胞へ順次進展した。一方,R型反応では接種後24∼28時間(感染後8∼12時間)まではS型反応と同様な伸長が認められ,その後菌糸は第1次感染細胞に充満することなく隣接細胞へ進展した。しかし,菌糸の肥大,分岐および進展は徐々に抑制された。
3. 細胞変質過程はHR型,R型およびS型反応において顕著に異なった。すなわち,HR型反応では感染の初期段階で砂粒状顆粒化変質が起こり,色は無色または淡黄∼淡褐色を呈することはあるが,濃褐変はほとんど認められなかった。R型反応では,接種後24∼28時間に砂粒状顆粒化が顕著になり,その後の菌糸進展に伴って中∼大型顆粒が増加した。S型反応では,感染菌糸が第1次感染細胞内に充満する時期(接種後36∼40時間)から砂粒状および中∼大型顆粒が出現した。また,R型およびS型反応では感染菌糸の進展した細胞から順次,濃褐変化が認められた。
4. これらの結果から抵抗反応の発現は感染初期の顆粒化変質と密接に関連しており,一方,濃褐変反応は感染菌糸の進展に伴って起こる現象であると考えられた。
5. 以上のような感染初期の菌糸進展および細胞変質過程から,HR型とR型の抵抗反応は明らかに異なる反応型であると考えられた。

著者関連情報
© 日本植物病理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top