抄録
オオムギより分離したオオムギ黄萎ウイルスの1分離株(BYDV 805)を用い,精製方法を検討し,抗血清の作成を試みた。凍結葉を室温で長時間磨砕することにより充分にウイルスが抽出された。クロロホルムによる清澄化の後,ポリエチレングリコールによる濃縮,分画遠心2回反復としょ糖濃度勾配遠心により精製した。ウイルス収量は病葉100g当り平均44μgであった。リンタングステン酸によるネガティブ染色で精製ウイルスはpHによりその粒子形態に変化がみられた。pH 5.0では平均直径は27.3nmであり,pH 6.0では28nmで,pH 7.0では多くの粒子が崩壊した。精製ウイルス標品は典型的な核蛋白様紫外部吸収スペクトルを示し,そのA260/A280比は1.71であった。精製ウイルスを免疫原として1回の筋肉注射と4回の静脈注射により力価1,024倍の抗血清を得ることができた。本抗血清より分離したγ-グロブリンを用いた酵素結合抗体法(直接サンドウィッチ法)により粗汁液中のウイルス抗原の検出が可能となった。また,本ウイルスとジャガイモ葉巻ウイルス(PLRV)とを用い,同法により比較したところ,それぞれホモロガスな組合せでのみ反応が認められた。一方,寒天ゲル内二重拡散法では本ウイルスとPLRV,ダイズ矮化ウイルス,beet western yellows virusに対する各抗血清との間に微弱ながら陽性の反応が認められた。