性格心理学研究
Online ISSN : 2432-695X
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3気質類型・複合構造モデルとパーソナリティのフラクタル性 : パーソナリティ統合理論構築の試み
若林 明雄
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1994 年 2 巻 1 号 p. 2-22

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抄録
パーソナリティ研究においては, 個別研究とともに, それらを統合する基礎理論が必要である. 本研究では, パーソナリティの個別性と普遍性をともに満足するための統合理論として, パーソナリティのプロセス・モデルと構造モデルを構築した. プロセス・モデルでは, パーソナリティとしてとらえられる一連の過程を分析し, 心理的状態から表出行動までをパーソナリティの過程と考えるとともに, この個人のパターンを広義の気質として理解し, それを類型化することによって構造モデルとして"3気質類型・複合構造モデル"を構築した. 3気質類型・複合構造モデルでは, 基本類型として"循環性気質型", "分裂性気質型", "粘着性気質型"を設定するとともに, 各類型はそれぞれ1つの基本属性と2つの表現型が相異なる下位属性から構成されるものとして構造的な理解を試みた. 各基本類型の構造は, 循環性気質型が, 基本属性は"同調性"であり, 下位属性は"高揚・性"と"執着性"である. 分裂性気質型は, 基本属性が"分離性", 下位属性が"敏感性"と"独自性"であり, 粘着性気質型は, 基本属性が"直接性", 下位属性が"緩慢性"と"率直性"である. このモデルを適用することによって, 従来の精神病理学的なパーソナリティ像を整合的に理解することができるとともに, 一般人のパーソナリティ理解においても妥当性があることが示唆された. また, この類型論的なアプローチに加えて, 共通特性次元を使用したパーソナリティの把握も行い, 個人のパーソナリティをより詳細に記述説明することを試みた. この場合, パーソナリティは類型的に位置づけられるとともに, 特性次元上への傾向によって, 統合的で多次元的な理解が可能になる. このとき, 類型と特性の統合の考え方は, 類型を特性の上位概念として位置づけるのではなく, 特性傾向の中に類型の特徴が反映されるという形での統合を考え, これを数学的モデルを適用して"パーソナリティのフラクタル性"と名づけた.
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© 1994 日本パーソナリティ心理学会
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