抄録
精神科と一般内科との狭間で, 心療内科が対応しているうつ病の実態はどのようなものであるか, またうつ病を心療内科で診断してゆくときの留意点は何であるかを明らかにすることを目的とした。対象は東邦大学大森病院心療内科外来を平成3年1月〜12月の1年間に受診した気分障害患者(DSM-III-R)245例である。調査結果を要約すると以下の通りである。3ヵ月後の治療状況は約半数が継続加療されており, 身体表現性障害に比し良好な治療転帰であった(p < 0.01)。気分障害のうち約6割が特定不能のうつ病性障害(DSM-III-R)と診断され, うつ病群と比べると3ヵ月後の転帰は良好であった(P < 0.01)が, 著明改善の頻度は変わらなかった。特定不能のうつ病性障害の薬物使用の特徴は, 抗不安薬(p < 0.01), sulpiride(p < 0.01)が多く用いられていた。以上より, 心療内科を受診するうつ病の実態を分析してみると, 2つのタイプが存在していた。大部分は軽症であり, 改善傾向を示しやすいが, なかなか完全に治癒しないいわゆる小うつ病型のものが多い。しかし少数ではあるが, 抗うつ剤が著効し, 短期間に著明に改善する仮面デプレッション型のものもあることが判明した。すなわち, 心療内科が受け持つことが適切であると考えられるうつ病には, 2つのタイプがあることが明らかになった。1つはパニック発作が重なったり, 心身両面の症候が長期に持続した軽症うつ病で, かつ病像が一定しないものである。もう1つは, うつ状態が種々の身体疾患に特有の症候に先行したり, または主症状として出現する症状である。うつ病を心療内科で担当していくときの留意点は, 抑うつ症状と脳血管障害や悪性腫瘍などの身体疾病が併存していることを見逃さないことである。