心身医学
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心身医学と研究
乾 明夫
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2005 年 45 巻 6 号 p. 397-

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抄録

心身医学は多くの先達の努力により, 一般市民にも広く知られるようになった. 心身症の患者さんやご家族が, 気軽に受診していただける時代になったのではないかと思われる. 今後は, 全国の大学や基幹病院に心身医学を行いうる部門を設置する努力に加え, 内科, 精神科, 臨床心理など既存の部門がお互いの連携を深めることで, さらに充実した診療体制を構築することができるものと思われる. 心身医学の研究に関しては, 従来の臨床を重視した研究に加え, 基礎医学の進歩を受けたトランスレーショナルな研究が花開いていくものと思われる. 心身医学が多くの分野から構成される以上, 研究の方法論は多彩であり, 研究面における連携も重要な問題である. 食欲, 体重調節の分野に関しては, 1994年のレプチンの発見以来, その調節機構の理解に飛躍的な進歩が認められた. 体脂肪組織からその量に応じて放出されるレプチンは, 脳内に体脂肪の蓄積状況を伝える求心性シグナルであり, 視床下部に存在する食欲調節物質を介して食欲やエネルギー消費を変えることにより, 体重(体脂肪量)を一定に保持するというフィードバックループの存在が証明された. そして肥満や悪疫質病態は, このループが破綻もしくは不適切に作動した状態として理解されるようになった. この食欲, 体重調節機構が, ヒトにおいても重要な意味をもつことが証明された. すなわち, レプチンおよびレプチン受容体を欠損したネズミおよびヒトが, ともに過食, 肥満を示し, その表現型に多少の種差は認められるものの, 食欲, 体重調節機構の大枠が共通であることが明らかとなった. また遺伝子変異(SNP;一塩基多型)の解析から, レプチンの下流にあるメラノコルチンが, ヒトの食行動(肥満やむちゃ食い障害)に深く関わることが証明された. 現在, 動物実験やヒト病態の解析結果をもとに多くの創薬が試みられつつあり, 肥満, 摂食障害や悪疫質への臨床応用が間近いものと思われる. 心身医学の多くの領域で, このようなトランスレーショナルな研究が展開されようとしている. 心身相関の解析にも, 分子生物学を応用した新しい方法論や画像解析が工夫されていくものと思われる. 従来より, 動物実験は心身医学の分野にあまり貢献してこなかったとの批判がある. この批判は決して誤りではなく, 臨床例の解析とその積み重ねの大切さを見事に指摘している. しかし, 21世紀に入った現在, 心身医学の研究論をもう一度見直す時期がきているのではないかと考える. トランスレーショナルな研究が, 広くて深い心身医学の発展に貢献しうる時代が到来したと信じるのは, 私だけではあるまい. 問題は日々の多忙な臨床の中で, そのような時間をどのようにして作り出すのかということであろう.

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© 2005 一般社団法人 日本心身医学会
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