2006 年 46 巻 10 号 p. 891-896
重篤な身体合併症による喪失体験から抑うつ状態に陥った58歳の2型糖尿病患者の男性に心理面接を導入した.非構造的な面接過程でわれわれは,患者に特有の歪んだ認知パターンや,過去に対して極端に否定的な評価をする傾向を見出した.そこで,回想を用いた探索的介入を行った.面接開始当初の回想の主題は,人生の否定的側面に偏っていた.セラピストはホームワープや示唆を提示して,関心が過去から現在へと変化するように介入した.こうして現状を客観的に認識できるようになった後,肯定的な内容の回想を想起するように促した結果,過去を適正に再評価するようになり,自尊感情が回復して,抑うつ状態が緩和されたと考えられる.本研究においてわれわれは,認知の変容を促しながら,肯定的内容の回想を用いることによつて,重篤な合併症を商する糖尿病患者の抑うつ状態が改善する可能性を有する一つの仮説を得ることができたと考える.