抄録
本研究では,メタボリックシンドロームをひとつの社会現象として位置づけ,医学界内外のさまざまな問題点を,社会制度としての医療の諸問題を政治的経済的側面から検討する「批判的医療人類学」の観点から考察した.わが国におけるメタボリックシンドローム診断基準の成立過程を検証したところ,ウエスト周囲径・脂質異常・高血圧・高血糖の基準は各担当学会のガイドラインを並列したに過ぎず,科学的根拠を明らかにする作業も不十分なまま,また内科系8学会合同による検討委員会内部でも十分なコンセンサスが得られないまま,特定健診・特定保健指導という保健政策に応用されてしまったことが明らかになった.今後,診断基準を構成する各項目の心血管病発症に対する寄与率を統計学的に明らかにし,さらにこの概念をもとに保健政策を進めた場合の経費や対費用効果などを医療経済学的に検証していく必要があるだろう.