2012 年 52 巻 11 号 p. 1026-1033
透析患者は日常生活の制限,喪失体験,死と直面するストレスなどからうつ病をはじめとする精神障害を有することが多い.筆者は透析専門医のみでなく,心療内科医としても診療を行っているが,その立場から透析現場における精神障害に対する治療の重要性について,筆者がかかわった5症例を提示して述べてみたい.5症例の内訳は3例のうつ病と2例のパニック障害であり,それぞれの患者に対して心身医学的面接およびSSRIを主とした薬物療法を行うことにより,精神症状の軽減が認められ,透析治療の円滑な継続が可能となった.今回の経験から,透析患者の精神障害をより早期に把握し適切に治療することの重要性が示唆されたが,日本の透析医療は,身体的治療において世界最高水準を達成しているが,心理面へのアプローチは不十分であり,サイコネフロロジーという分野でのさらなる研鑽が必要であると思われた.