2014 年 54 巻 11 号 p. 1020-1025
顎関節症という疾患概念は,顎関節部の疼痛,関節雑音,開口障害を伴う慢性疾患の臨床診断名として使用されてきた.口腔外科領域では外来患者の約10〜15%と比較的頻度が高い.頭痛・頸部痛や肩こり,耳鳴りなど多彩な周辺症状を伴う患者も多い.線維筋痛症や慢性疲労症候群などとの合併も多い.本症の原因はいまだ解明されたとはいえないが,従来重視されてきた咬合(歯の咬み合わせ)の関与は否定されてきている.にもかかわらず,咬合と顎関節症状や周辺症状とを関連づけ,歯科治療の泥沼に陥るケースはいまだに後を絶たない.顎関節症そのものより咬合関連の愁訴のほうが大きな問題になることがはるかに多い.羮に懲りて膾を吹くように,咬合は「最も歯科的な症状」であるにもかかわらず,当の歯科医師が過度に敬遠する風潮が蔓延している.従来型診断では神経症圏に包含されたであろうこれらの患者は,歯科と精神科の間で譲り合いが続いている.医療システムより,これらの患者を誰が責任をもって診療するかの問題であるように思われる.