2016 年 56 巻 8 号 p. 789-795
がん患者は告知後, 治療中, 再発時, 治療の中止を告げられたときなど多大なストレスに曝露されるためメンタルヘルスの危機にさらされる機会が数多くある. そんな中で, 希死念慮を呈することも少なくない. 疫学研究では, がん患者の自殺率は一般健康人と比べて2倍程度高く, そのリスクが最も高いのは診断後間もない時期であり, 男性, 診断時の進行がん, 頭頸部がんなどが危険因子とされている. 多くの危険因子が知られているものの, 危険因子の把握のみが自殺予防にとって最も重要なわけではないことが最近の多くの研究で指摘されている. 本稿で紹介するJoinerの対人関係理論は, これまでの自殺に関する研究知見を包括的に説明し, かつ臨床においてリスク評価および介入までを連続的に提示しているモデルとして期待されている. 希死念慮を呈したがん患者に対して, その背景にある苦痛を理解しようとする共感的な態度が必須であることはいうまでもない.