心理ストレスは脳の交感神経調節系に作用してさまざまな生理反応を生じさせる. 体温の上昇は顕著な生理反応の1つであり, 強い心理ストレスが心因性発熱と呼ばれる高体温症状を引き起こすこともある. こうしたストレス反応は基本的な生理反応だが, その中枢神経機序は研究途上である. ストレス性体温上昇とよく似た体温上昇である感染性発熱の神経回路機序と比較すると, どちらも視床下部背内側部から吻側延髄縫線核を介した交感神経駆動経路を通じて褐色脂肪熱産生が亢進することで生じる. しかし, 視床下部背内側部を興奮させる仕組みがストレス性体温上昇と感染性発熱とでは異なる. 感染性発熱は, 視索前野でのプロスタグランジンE2作用を介した神経伝達変化が視床下部背内側部を興奮させることで惹起される一方, ストレス性体温上昇は, 皮質辺縁系から視床下部背内側部へのストレス信号入力によって視床下部背内側部ニューロンが興奮することで惹起される.