抄録
血管透過性亢進因子 (VPF/VEGF) は強い血管透過性亢進作用,血管内皮細胞増殖作用およびMonocyte遊走,活性化作用を持つ約40kDの糖蛋白である。現在までに,種々の腫瘍細胞株や胎児血管平滑細胞などの正常細胞からVPF/VEGFが産生されることが報告されている。我々は,メサンギウム細胞 (MC) が血管平滑筋細胞と類縁の細胞であること,血液細胞由来の腫瘍細胞株であるU937やHL60がVPF/VEGFを産生することに注目し,MC,末梢血単核球 (PBMC) および末梢血T細胞 (T-cell) によるVPF/VEGFの産生およびその調節機構について検討した。Northem blottingおよびRT-PCRによる解析では,ヒト培養メサンギウム細胞 (MC) がVPF/VEGFmRNAを発現しており,fetal calf serum,phorbol ester (TPA) およびtransforming growth factor-β1によってVPF/VEGFmRNAの発現は亢進し,TPAによるVPF/VEGFmRNAの発現亢進はdexamethasoneにより有意に抑制された。また,蛋白レベルでもMCによるVPF/VEGFの発現が証明された。PBMCおよびT-cellもVPF/VEGFmRNAを発現していることがRT-PCRを用いた解析で明らかになった。半定量的RT-PCRによる解析で,PBMCによるVPF/VEGFmPNAの発現はTPAによる活性化に伴って増加した。T-cellでも同様に,TPAによる活性化に伴ってVPF/VEGFmRNAの発現が亢進した。さらに,抗CD3抗体によるT-cell receptorの刺激によってVPF/VEGFmRNAの発現が亢進した。すなわち,ある種の抗原やサイトカインによってPBMCやT-cellが活性化されるとVPF/VEGFの産生が亢進することが示唆された。以上より,1) MC,PBMCおよびT-cellはVPF/VEGFを産生し,2) その産生は種々のFactorや抗原刺激によって修飾を受けることが明らかになった。これらの所見より,MC,PBMCおよびT-cellによって産生されたVPF/VEGFが,糸球体腎炎で認められる糸球体基底膜の透過性亢進や糸球体への炎症細胞浸潤,間質性腎炎や移植腎拒絶反応に見られる間質の浮腫や炎症細胞浸潤に関与している可能性が考えられた。