2023 年 43 巻 9 号 p. 520-525
序論:上下顎骨切り術において,従来は術前の自己血採取が推奨されていたが,近年は術中の出血量が減少しており必須ではないという意見がある。本研究の目的は,当科で自己血輸血を取りやめた前後で比較を行うことで自己血輸血による影響を解析し,その必要性を再検討することである。
方法:当科において上下顎骨切り術を受けた24連続症例を自己血採取群(n=12),非採取群(n=12)に分け背景因子,術中・術後因子を後方視的に比較した。
結果:全例で同種血輸血の実施はなかった。出血量,総補液量,In-Outバランスが自己血採取群で有意に多かった。術後Hb値,術前後Hb変化量は有意差を認めなかった。貧血症例では両群とも術前に鉄剤とエリスロポエチン製剤が使用されていた。
結論:上下顎骨切り術において自己血輸血を取りやめても,同種血輸血を行わずに済み,術後Hb値にも影響せず安全に手術の実施が可能であった。貧血例では鉄剤とエリスロポエチン製剤の使用が必要十分である可能性があるが,今後の検討が必要である。