日本産業保健理学療法学雑誌
Online ISSN : 2758-4798
原著論文
製造業における疼痛予防セミナーの効果検証
大古 拓史 , 岡部 麻美, 後藤 響
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2026 年 4 巻 1 号 p. 11-17

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Abstract

【目的】製造業従業員に対して,事前アンケートから業務特性や疼痛などの状況を事前に把握し,問題点を抽出後,それらに対応した疼痛の科学的理解や認知行動療法,運動療法を組み合わせた90分の疼痛予防セミナーの効果検証を実施した.

【方法】対象は製造業従業員62名とした.評価は介入前と疼痛予防セミナー3ヵ月後に実施し,絶対的および相対的プレゼンティーズム,質問紙を用いた疼痛の程度,破局的思考,不安や抑うつ,自己効力感,身体活動量,健康関連調査を評価した.

【結果】絶対的プレゼンティーズムや疼痛の最大値と拡大視は有意に改善したが,相対的プレゼンティーズムや心理的指標,身体活動量には有意な変化は見られなかった.

【結論】製造業従業員に対する疼痛予防セミナーは,事前アンケート等を通じて業務特性や問題点を抽出し,対応する講義を実施することによって,絶対的プレゼンティーズムと疼痛の軽減に一定の効果を示すことが示唆される.

Translated Abstract

Purpose: We evaluated the efficacy of a 90-minute seminar combining science-informed understanding of pain, cognitive behavioral therapy, and exercise therapy for manufacturing employees. This seminar guided employees in identifying problems using pre-intervention questionnaires that assessed characteristic work activities and pain levels.

Methods: Sixty-two manufacturing employees participated in this study. Evaluations were conducted before the intervention seminar, and three months after, assessing absolute and relative presenteeism, self-reported pain, catastrophic thinking, anxiety and depression, self-efficacy, physical activity levels, and health-related survey responses.

Results: While absolute presenteeism, maximum pain level, and perception of pain exacerbation all improved significantly, no significant impacts on relative presenteeism, psychological indicators, or physical activity levels were observed.

Conclusion: These findings suggest that pain prevention seminars for manufacturing employees, by identifying work characteristics and problems through pre-intervention questionnaires and conducting corresponding lectures, can measurably reduce absolute presenteeism and pain.

はじめに

労働環境における慢性疼痛は社会的コストを増加させ,医療費のみならず労働生産性の観点における損失も問題となっている1).特に製造業に従事する労働者は,長時間の立ち作業や反復動作,重労働によって身体に繰り返しの負荷がかかり,その動作状況に応じた部位に慢性的な疼痛を生じることが多い2).これらの疼痛は,生活の質(Quality of life: QOL)の低下のみならず,生産性の低下や欠勤(アブセンティーズム),プレゼンティーズムに影響を与える.特に製造業では,プレゼンティーズムが生産効率に与える割合が大きく,企業の業績にも直結する重要な課題となっている3,4).プレゼンティーズムとは,職場に出勤しているが,心身の不調により生産性が低下している状態と定義され,言い換えるとパフォーマンス度を示す指標である5).プレゼンティーズムによる損失は,治療に要する医療費よりも3倍になるとの報告や6,7),健康関連コストの約80%を占めるという報告も経済産業省から出されており8,9),プレゼンティーズムを改善することが労働者の健康を保ち,生産性の向上や医療費などの社会的コストの軽減することに繋がるため,改善すべき課題である.

このような現状を踏まえ,我が国では従業員の健康保持や増進,予防的な観点から,企業における健康管理を経営的な視点で考え実践する健康経営という取り組みが経済産業省の主導で10年ほど前に開始された.健康経営の概念は,1992年に米国の臨床心理学者であるロバート・H・ローゼン氏がTHE HEALTHY COMPANYという自著で,従業員の健康管理を経営課題として認識し,企業が健康増進に取り組むことで収益性の高い企業となるという思想が根本となっている.また,健康経営を実践した研究報告では,健康経営を積極的に実践している企業は株価に反映されることが報告されている10).

我が国の健康経営の現状では,経済産業省が主体となり「健康経営優良法人制度」を設立し,「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」における優れた健康経営を実践している組織を顕彰している.この制度によって,フレームワークに基づいた企業の健康経営への取り組みが評価されており,体系的な健康経営の実践化が促進されている.この認定制度によって,企業全体の健康に対する意識付けや禁煙,食生活の改善,運動機会の取り組みやメンタルヘルスへの対応については項目として挙げられているが,プレゼンティーズムに直結するような肩こりや腰痛に代表される慢性的な疼痛など現場ならではの問題点に対しては,十分な対応・対策が出来ておらず,これからの課題とされている11).

本研究においては,これらの現場ならではの課題に対し,事前アンケートを実施し,問題点や課題を抽出後,製造業従業員を対象に疼痛に対する科学的な理解や認知行動療法技法,運動療法を組み合わせた疼痛予防セミナーを実施し,その効果を多角的に評価することを目的とした.具体的には,疼痛の程度,心理的な不安・抑うつ,自身の疼痛に対する自己効力感,さらには生産性への影響について検討する.従業員の疼痛管理能力を向上させることが,QOLの改善や業務効率の向上につながるかどうかを明らかにし,今後の労働環境における疼痛対策の一助となることを期待する.

方法

対象は,従業員500名強の製造業国内工場1拠点において,事前に疼痛予防セミナーの社内告知を行い,参加希望を申し出た62名(男性5名,女性57名,平均年齢41.8 ± 14.0歳)とした.勤務体系・業務内容は,3交代制の24時間体制で,紙コップ等の容器製造(シェア上位)および検品作業が主業務である.

62名の参加者を20名程度の3グループに分け,1回90分の座学(45分)および実技(45分)を実施した.また,疼痛予防セミナー実施前に全部署に対して疼痛の部位や頻度等に関するアンケートを配布し,業務上生じる疼痛の部位や動作等について事前調査を実施した.回答が得られた291名分の結果をもとに疼痛予防セミナーの内容を作成した.

疼痛予防セミナーの内容は,患者教育として,①疼痛の科学的教育(メカニズムや治療,対処方法など),②認知行動療法技法の教育(アクティビティ,ペーシング,ストレスコーピングなど),③業務内容や事前調査から得られた身体不調部位に対する動作指導やストレッチ等の実技指導,④有酸素運動等の運動療法の具体例を紹介する4つから構成された.

評価は講義実施前(Pre)と3ヶ月後(Post)に実施した.メインアウトカムであるプレゼンティーズムは, Health and Work Performance Questionnaire:WHO-HPQを用いて,絶対的プレゼンティーズムと相対的プレゼンティーズムを算出し,Single-Item Presenteeism Question: SPQ(東大1項目版)を用いて,絶対的プレゼンティーズムを算出した.プレゼンティーズム測定の評価ツールはいくつかあるが,WHO-HPQは,絶対的と相対的プレゼンティーズムの測定が可能であり,国際的に広く用いられているため採用した.しかし,自己評価の度合いによってスコアが低く算出される懸念や,設問の表現が難解であることから,日本で開発され簡便に回答が可能なSPQを併用して多角的にプレゼンティーズムを評価することとした.

疼痛は簡易疼痛質問票であるBrief Pain Inventory:BPI,破局的思考は,Pain Catastrophizing Scale:PCS,不安や抑うつは,Hospital anxiety and depression score:HADS,自己効力感は,Pain Self-efficacy Questionnaire:PSEQ,身体活動量は,International Physical Activity Questionnaire short form:IPAQ-SF,QOLは,EuroQol 5 dimensions 5-level:EQ-5Dを用いて健康関連QOLを評価した.BPIは,疼痛の重症度に関する質問項目で構成され,疼痛の性質,疼痛の部位,主観的な疼痛の強さを10段階で評価するものである12).主観的な疼痛の強さは,過去24時間の最大値,最小値,平均値と現在の疼痛の強さをNumerical Rating Scale:NRSを用いて回答し,スコアが高いほど疼痛が重症であることを示す.PCSは,破局的思考の程度を3因子13項目52点満点で評価し,普段の疼痛の状況について,自らの状態にどれくらい当てはまるかを5段階で評価するものである.30点がカットオフ値であり,点数が高くなるほど破局的思考が強いことを示す13).破局的思考とは,心理社会的ストレスが強い状況が続くことで,不安,抑うつ,怒り,焦燥などの症状が出現し,物事を否定的に捉えやすい心理状態に陥り,疼痛の情動体験を否定的に捉える思考である.HADSは,身体症状を持つ患者の不安とうつに関する自記式調査票であり,14項目42点満点で構成され,8点から10点が境界領域,11点以上が不安やうつの診断基準に用いられている14,15).PSEQは,疼痛を感じながらも活動への自己効力感を評価する質問紙であり,10項目60点満点で構成され,点数が高いほど自己効力感が強いことを示す.カットオフ値は40点以下が用いられている16,17).IPAQ-SFは,国際標準化身体活動質問票と言い,過去1週間における中等度と高強度の身体活動量,10分以上の歩行と安静時間について,質問紙を通じて算出するものである18,19).EQ-5Dは,「移動の程度」「身の回りの管理」「ふだんの活動(仕事,勉強,余暇活動など)」「疼痛/不快感」「不安/ふさぎ込み」について5段階で評価し,換算表を用いてスコア算出するものである.スコアは0から1までであり,高いほど健康状態が良いとされ,カットオフ値は0.680である20,21).

統計解析は,データの正規性をShapiro-Wilk検定で確認後,対応のあるt検定もしくはウィルコクソンの符号付き順位検定を実施した.統計ソフトは,SPSS version 29.0を使用し,有意水準は,5%とした.尚,本研究は,星城大学研究倫理委員会の承認を得て実施され(認証番号:24PT13),ヘルシンキ宣言ならびに人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針に基づき対象者の保護には十分留意し,研究内容の説明を行い,同意を得て実施された.

結果

疼痛予防セミナー実施前に行ったアンケート(n = 291)では,疼痛を感じる部位は複数回答ではあるが,上位から順番に腰部(46.4%),肘・手部(33.0%),頚部・肩(28.9%)であった.また,業務中や業務前後に疼痛を感じる方は,60.1%であった.業務特性上の問題点としては,ライン製造が主であるため,左右同一方向への繰り返し作業や,回旋動作を含んだ床からの荷物の持ち上げ作業,同じ姿勢や動作での製造・検品作業(頚部屈曲,前かがみ,前腕・手指の繰り返し使用)が挙げられた.これらの結果を踏まえて,疼痛予防セミナー内容に身体不調部位に対する動作指導やストレッチ等の実技指導を盛り込んだ.

疼痛予防セミナー実施前と実施3ヶ月後に行った評価結果を表1に示す.測定値はすべて平均および標準偏差で示す.メインアウトカムであるプレゼンティーズムは,WHO-HPQの絶対的プレゼンティーズムにおいて,63.0 ± 19.0%から69.0 ± 17.0%に有意な増加がみられた(p = 0.023).しかし,WHO-HPQの相対的プレゼンティーズムやSPQの絶対的プレゼンティーズムでは有意な変化はなかった.

表1セミナー前後における各種評価項目

Pre Post 3M P
WHO-HPQ (絶対的) 63.0 (19.0) 69.0 (17.0) 0.023
WHO-HPQ (相対的) 99.5 (24.3) 101.2 (28.6) 0.150
SPQ (絶対的) 81.4 (15.8) 84.3 (14.4) 0.082
NRS (Max) 4.1 (2.5) 3.5 (2.6) 0.045
NRS (Min) 2.2 (1.8) 2.0 (2.2) 0.657
NRS (Ave) 3.6 (2.2) 3.3 (2.3) 0.308
BPI-SF Total 24.8 (16.7) 23.1 (17.6) 0.302
PCS Total 22.9 (10.2) 21.1 (11.9) 0.113
PCS 反芻 10.6 (4.5) 10.3 (5.3) 0.776
PCS 無力感 7.3 (4.3) 6.7 (4.6) 0.112
PCS 拡大視 5.1 (2.8) 4.0 (2.6) 0.002
HADS 不安 6.3 (3.8) 6.2 (3.8) 0.671
HADS 抑うつ 6.9 (3.3) 7.0 (4.0) 0.658
PSEQ 36.8 (12.1) 38.9 (14.2) 0.143
EQ-5D 0.851 (0.124) 0.852 (0.112) 0.809

Values are mean ± standard deviation.

WHO-HPQ; Health and Work Performance Questionnaire, SPQ; Single-Item Presenteeism Question, NRS; Numerical Rating Scale, Max; Maximum, Min; Minimum, Ave; Average, BPI; Brief Pain Inventory, PCS; Pain Catastrophizing Scale, HADS; Hospital anxiety and depression score, PSEQ; Pain Self-efficacy Questionnaire, EQ-5D; EuroQol 5 dimensions 5-level.

疼痛の程度に関しては,NRSの最大値が4.1 ± 2.5から3.5 ± 2.6へと有意に減少したが(p = 0.045),最小値や平均値に有意差はなかった.PCSでは,拡大視において5.1 ± 2.8から4.0 ± 2.6へと有意に減少したが(p = 0.002),その他のPCS項目に有意差はみられなかった.HADSにおいても有意差は見られなかった.就業時間や欠勤日数,IPAQ-SFを用いた身体活動量アンケートやEQ-5Dを用いた健康関連QOLにおいても有意な差はなかった.

考察

本研究では,製造業に従事する従業員に,事前アンケートで現場固有の課題や業務特性を正確に把握し問題点を抽出後,それらに対応する内容も含めた1回90分間の疼痛予防セミナーを実施し,その効果検証を行った.疼痛予防セミナー実施3ヵ月後において,WHO-HPQで評価した絶対的プレゼンティーズムが増加し,疼痛はBPIにおけるNRSの最大値において軽減が見られた.さらにPCSの拡大視においても改善がみられた.これらの結果は,1回90分間の疼痛予防セミナーであっても,業務内容や業務特性,これらの業務動作から生じる疼痛部位の関連性を予め把握し内容に含めることで,従業員から必要とされている情報や対策を提示でき,改善に繋がったと考えられる.

本研究参加者における疼痛の部位は,腰部(46.4%),肘・手部(33.0%),頚部・肩(28.9%)の順であり,従来報告されている製造業労働者の慢性疼痛発生状況と一致している1).また,WHO-HPQの絶対的プレゼンティーズムは,日本における平均値は60.9 ± 18.5%,SPQのプレゼンティーズムは84.9 ± 15.7%と報告されており22),本研究対象となった企業においても本邦の平均的な位置づけの製造企業であったと考えられる.絶対的プレゼンティーズムは,自分のパフォーマンス度を表す指標であり,最大のパフォーマンスは100%となる.一方,相対的プレゼンティーズムは他者と自分を比較した際のパフォーマンス度を表す指標であり,割合が低くなると他者よりもパフォーマンス度が低下していることを示す.

WHO-HPQの絶対的プレゼンティーズムは,高ストレスなどの健康要因と関連することが報告されており23),メンタルヘルス,筋骨格系の疼痛24),関節痛25),睡眠や運動を含めた活動状況26)について改善していくことが,絶対的プレゼンティーズムを増加させることに繋がると考えられる.本研究で実施した疼痛予防セミナーは,現場動作の問題点を抽出し,対応したストレッチや簡単な運動方法の内容を取り入れたため,筋骨格系の疼痛に対する対処や有酸素運動を含めた運動の重要性などの知識が得られ,絶対的プレゼンティーズムの増加に繋がったと考えられる.しかしながら,本研究では,WHO-HPQの絶対的プレゼンティーズムの増加はみられたが,SPQの絶対的プレゼンティーズムでは変化がみられなかった.WHO-HPQとSPQの絶対的プレゼンティーズムは,それぞれ過去4週間の状況を聴取しており,評価期間は同じである.設問については同様の聞き方であるが,回答方法はWHO-HPQは0から10の11段階であり,SPQは数値の記載である.回答方法の違いによって結果の差異が生じている可能性が考えられるが,プレゼンティーズムを計測する評価手法を比較したreviewでは,WHO-HPQやSPQや他を含め,反応性が十分でないということが示唆されている27).これらから,絶対的プレゼンティーズムの計測は,複数の評価手法を用いて検討することも考えなければならない.

PCSは,疼痛の破局的思考を評価するものであり,「反芻」「無力感」「拡大視」の3つの下位項目で構成されている.破局的思考は,疼痛に対して悲観的で過剰に捉えてしまう考えであり,「反芻」は疼痛関連した考えに過剰に注意を向け,「無力感」は疼痛の強い状況からの対処として他へ目を向けることであり,「拡大視」は,疼痛を必要以上に強く捉えてしまう考えである28).本研究の疼痛予防セミナー内容に,①疼痛の科学的教育や②認知行動療法技法の教育プログラムを取り入れることによって,参加者の疼痛に対する漠然とした不安が軽減し,「拡大視」が改善したものであると考えられる29).また,本研究におけるNRSの最大値は4.1であり,通常の状態であれば軽度の疼痛( ≦ 5)に分類される(中等度:6-7,重度 ≧ 8).しかし,疼痛の破局的思考がある状態は,軽度の疼痛( ≦ 3),中等度(4-6),重度( ≧ 7)となり30),本研究の介入前は中等度の疼痛を感じている状態であった.しかし,疼痛予防セミナーの講義内容を受け,PCSの「拡大視」が改善したことによって,NRSの最大値も低下したのではないかと考える.また,NRSの最大値が低下した要因として,対処療法としてのストレッチや可動性運動を中心に指導を実施したため,疼痛の最大値は即時効果として低下したが,根本的な改善には寄与していないため,疼痛の平均値等は変化しなかったのではないかと考えられる.これは,業務特有の作業時や動作時に生じる疼痛が軽減した一方で,日常的に感じているような基礎的な疼痛は残存していたのではないかとも考えられ,1回のみの介入における限界を示す結果であったとも考えられる.これらを踏まえ,現場介入においては,特定の作業動作から生じる疼痛の軽減を図るとともに,慢性疼痛を視野にいれた運動療法や身体活動量向上に向けた定期的な介入が必要であったと考えられる.そうすることで,本研究では変化がみられなかった身体活動量や健康関連QOLなどにも波及効果が得られるのではないかと考える.

工業先進国であるアメリカ,オーストラリア,オランダでは産業理学療法が確立されており,労働災害の予防としての運動指導,人間工学的な作業姿勢の評価,高齢の勤労者への運動機能の改善指導がなされ,その成果が広く認知されている31,32).特に製造業においては,Repetitive Strain Injuryと呼ばれる同じ動作を反復して行うことによる身体障害や,Work-Related Musculoskeletal Injuriesと呼ばれる作業関連筋骨格系障害を防ぐことが,重要であることが示されている33,34).

さらに,これらに理学療法士が現場に関与することによって,医療費の削減やプレゼンティーズムの改善に繋がることが報告されている35).我が国における健康経営では,現場レベルの具体的問題に対する対策や予防に関しては不十分であるため,工業先進国である国々同様に理学療法士が関わり,本研究は1回90分のみの疼痛予防セミナーであったが,業務内容・特性を把握することで業務動作上の問題点と疼痛の関連を推察し,対応する内容・対策を提供することで疼痛の最大値や絶対的プレゼンティーズムが改善したと考えられる.

本研究の限界としては,単一施設のみでの実施であり,今回の疼痛予防セミナー対象者は自主的な参加者であったため,疼痛予防に関心が高い可能性や,比較的モチベーションも高く反応性も良い層であることが考えられる.また,参加者の9割以上が女性であり,選択バイアスも影響し改善に繋がった可能性が考えられる.さらに,サンプルサイズが62名と比較的少ないため,被験者数の拡大や男女比率,職種や業種を踏まえた比較対象群を設定した無作為化試験も今後検討していく必要があると考える.本研究は3ヵ月間の比較的短期間の効果を検証したが,6ヵ月や1年といった長期的な追跡調査や,介入回数を増やすなど長期的効果も検証していく必要性がある.

現場では担当部署が中心となり健康向上に関する取り組みが行われているが,問題点の抽出が出来ていないため実施内容が十分とは言い難い状況や,現場レベルでは,自信の健康に関心があまりない参加者の吸い上げや,企業全体としての関心度や理解度の現状を垣間見ることができ,関与する余地があることが分かった.

本研究を通じて,製造業従業員に対する疼痛予防セミナーは,事前にアンケート等を通じて業務特性や問題点を抽出し,対策を講じることによって絶対的プレゼンティーズムと疼痛の軽減に一定の効果を示すことが示唆される.この結果は,従業員の慢性疼痛対策を通じて生産性の向上と従業員の健康維持を両立させるための一助となることが期待される.

利益相反

本研究に関して,開示すべき利益相反はない.

謝辞

本研究にご参加頂きました皆様に深くお礼申し上げます.

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