2021 年 39 巻 1 号 p. 19-35
脳機能画像法を用いた研究により,情動と関わる腹内側前頭前野や扁桃体がレム睡眠中に活動することが明らかになってきた。また,ヒトのレム睡眠中の急速眼球運動 (rapid eye movements: REMs) に先行してpre-REM negativityと呼ばれる脳電位が出現し,その脳電位の発生源は腹内側前頭前野,扁桃体であることが推定されている。レム睡眠中に活性化する情動関連脳部位の役割としては,恐怖条件付けの促進と消去,情動記憶の固定,情動の脱増強,情動行動の最適化などのいくつかの仮説が提唱されているが,情動行動の最適化の仮説についてはその実証が不十分である。本評論では,レム睡眠中の情動過程やその機能的意義に関して,ヒトを対象とした最近の知見を概観する。特に,意思決定状況に関する記憶がレム睡眠中に再活性化されることで,生体にとって長期的に有利となる選択をするように判断にバイアスがかかるという仮説について論じる。本仮説は,レム睡眠における覚醒時の情動行動の最適化機能を検証するための枠組みとなるであろう。