生理心理学と精神生理学
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39 巻, 1 号
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巻頭言
評論
  • 田中 秀樹, 岩城 達也
    2021 年 39 巻 1 号 p. 4-18
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2022/03/23
    [早期公開] 公開日: 2022/01/22
    ジャーナル フリー

    本稿では,脳波段階(Hori’s stages)を用いて,入眠期の多彩な脳波変化を定量的に記述すると共に,入眠期脳波の空間分布特徴,入眠前の覚醒状態と入眠過程の進行との関係についての時間的なダイナミクス,など,覚醒睡眠移行期の精神生理学の重要性について解説する。入眠期の脳波段階を基本指標として行動指標や主観指標と対応づけて入眠期を検討することで,覚醒中及び睡眠中の意識・感情・行動及び脳機能を洞察する上で有益な情報が得られることが期待できる。

  • 阿部 高志
    2021 年 39 巻 1 号 p. 19-35
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2022/03/23
    [早期公開] 公開日: 2021/12/22
    ジャーナル フリー

    脳機能画像法を用いた研究により,情動と関わる腹内側前頭前野や扁桃体がレム睡眠中に活動することが明らかになってきた。また,ヒトのレム睡眠中の急速眼球運動 (rapid eye movements: REMs) に先行してpre-REM negativityと呼ばれる脳電位が出現し,その脳電位の発生源は腹内側前頭前野,扁桃体であることが推定されている。レム睡眠中に活性化する情動関連脳部位の役割としては,恐怖条件付けの促進と消去,情動記憶の固定,情動の脱増強,情動行動の最適化などのいくつかの仮説が提唱されているが,情動行動の最適化の仮説についてはその実証が不十分である。本評論では,レム睡眠中の情動過程やその機能的意義に関して,ヒトを対象とした最近の知見を概観する。特に,意思決定状況に関する記憶がレム睡眠中に再活性化されることで,生体にとって長期的に有利となる選択をするように判断にバイアスがかかるという仮説について論じる。本仮説は,レム睡眠における覚醒時の情動行動の最適化機能を検証するための枠組みとなるであろう。

  • 玉置 應子
    2021 年 39 巻 1 号 p. 36-51
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2022/03/23
    [早期公開] 公開日: 2021/12/17
    ジャーナル フリー

    人はなぜ眠るのか? この疑問は何世紀にも渡り問われ続けてきたものの,未だに統一見解に至っていない。ノンレム睡眠が学習・記憶に貢献することが報告され,システムコンソリデーション仮説やシナプス恒常性仮説など,複数の仮説が提案された。しかし,レム睡眠については,未だ議論の余地がある。本項では,視覚学習を中心として,ヒトの学習における睡眠の役割について,これまでに蓄積されてきた知見に加えて,新しい脳機能計測技術を用いて明らかにされてきた研究成果を述べる。特に,MRスペクトロスコピーと睡眠ポリグラフの同時計測により,ヒトの睡眠中の興奮抑制バランスを計測することも可能になった。この技術を用いることで,ノンレム睡眠とレム睡眠中には,視覚システムにおいて脳の変化のしやすさ(脳の可塑性)が変動し,オフラインゲインと干渉に対する頑健さという,学習の異なる側面に,それぞれの睡眠が貢献することが明らかになってきた。

原著
  • 林 光緒, 荻野 裕史
    2021 年 39 巻 1 号 p. 52-64
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2022/03/23
    [早期公開] 公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー

    入眠困難は,生理的覚醒だけでなく不安や懸念などの認知的覚醒によっても生じると考えられている。しかし認知的覚醒によって入眠過程のどの部分が妨害されるのかについては明らになっていない。本研究は,9つの脳波段階を用いて入眠努力が入眠過程に及ぼす影響を検討した。睡眠愁訴をもたない健常な男子大学生(9名,21―23歳)が2夜の実験に参加した。彼らは眠くなったら眠る(中性条件)か,できるだけ早く眠る(努力条件)よう教示された。その結果,努力条件において,脳波段階1(α波連続期)と4(平坦期)の出現時間延長した。これらの結果から,入眠努力は覚醒系の活動が低下する入眠期初期にのみ影響を及ぼす可能性が示唆された。

  • 沖本 一哉, 小川 景子
    2021 年 39 巻 1 号 p. 65-78
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2022/03/23
    [早期公開] 公開日: 2021/10/05
    ジャーナル フリー

    睡眠段階2に特有のK複合波は覚醒誘発機能と睡眠保護機能の両方の役割を担うことが報告されているが,機能について未だ議論中である。外因性のK複合波出現時の事象関連電位(evet-related potential: ERP)は二峰性(N300-P400-N550-P900)または一峰性(N300-P900またはN550-P900)の形態を示し,K複合波の機能と関連する。先行研究より,この形態の違いに関してP400の関与が指摘されている。P400は外界の刺激に対する情報処理過程を反映し,眠りが深くなると振幅が減衰または消失する。本研究では聴覚刺激呈示による外因性のK複合波出現時のERP波形と機能について,1周期目の睡眠段階2を前半区間と後半区間に分け比較した。検討の結果,P400振幅は前半区間よりも後半区間で減衰した。それにしたがって,前半区間ではK複合波は二峰性(N300-P400-N550-P900)のERP波形が出現したのに対して,後半区間では一峰性(N300-P900)であった。本研究結果より,K複合波の機能について,前半区間では覚醒誘発機能が,後半区間では睡眠保護機能がそれぞれ優勢に働く可能性を示した。

  • 田村 聖, 松浦 倫子, 北村 航輝, 山仲 勇二郎
    2021 年 39 巻 1 号 p. 79-93
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2022/03/23
    [早期公開] 公開日: 2022/01/15
    ジャーナル フリー

    眠気の日内変動には,起床6から8時間後に高まる眠気(午後の眠気)と夜間就寝前にむけて高まる眠気(夜間の眠気)が存在する。夜間の眠気は,脳内の生物時計中枢の制御を受ける深部体温の概日リズムに起因する。一方,午後の眠気の発生機序については不明である。本研究では,眠気に関わる生理的要因として末梢皮膚温,深部体温,自律神経活動に注目し,眠気と生理的要因との関係性を明らかにすることを目的とした。その結果,5名中4名の実験参加者において,起床3時間後以降に2から5時間毎の眠気の変動が観察された。起床後0―2時間および就寝時刻付近の眠気は深部体温,皮膚温,自律神経活動と有意な相関が認められた。一方,午後の眠気については個人差が大きく,体温,自律神経活動と一貫した相関関係は認められなかった。これらの結果から,眠気の日内変動に存在するウルトラディアンリズムは体温と自律神経活動の概日リズムに依存しないが,起床後および就寝前の眠気は,主に概日リズムを発振する生物時計中枢の制御を受けることが推測された。

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