生理心理学と精神生理学
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評論
注意欠如・多動症児・者における抑制課題遂行中の脳活動に関する文献的検討――Nogo-P3を中心にして――
鈴木 浩太
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2023 年 41 巻 2 号 p. 172-183

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抄録

本稿では,注意欠如・多動症(ADHD)児・者における抑制課題中の脳活動に関する文献をまとめ,その知見をADHDの異種性と反応抑制課題中の脳活動に与える要因を踏まえて解釈した。先行研究におけるメタ分析で,定型発達(TD)児・者と比較して,ADHD児・者でNogo-P3が有意に減弱する一方で,その他の指標で有意な差が認められていなかった。ADHD児・者内において,診断基準を満たす症状があることは共通しているが,原因,脳の構造・機能,心理学的特徴が異なることが示されていた。先行研究の結果から,覚醒度などのADHDに関わる要因が,Nogo-P3に影響を与えると考えられた。以上のことから,ADHD児・者におけるNogo-P3の減弱は,抑制機能の低下のみを反映しておらず,その原因はADHD個人によって異なることが示唆された。他の課題遂行に伴う脳活動の指標についても同様なことが想定され,これらの指標の臨床上の有用性は低いと推察された。他方,ADHDにおける脳活動の異種性や特徴的な行動の背景にある処理過程を検討するために,脳活動の指標が活用されていくことが期待された。

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© 2023 日本生理心理学会
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