2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 143
【はじめに、目的】
乳児は手や足が正中線へ向かう自発的な運動 (Movement toward midline;MTM)を行っており、このような運動は抗重力運動の発達や体性感覚の獲得に寄与している。2D姿勢推定は、2次元の画像や映像から各関節のx、y座標を基にリアルタイムで人体の姿勢を推定する技術であり、低コスト、短時間で定量的なデータを得られる方法である。本研究の目的は、乳児のMTMにおける2D姿勢推定データから得られた身体各部の運動の特徴とMTMの相関関係を明らかにすることである。
【方法】
8~ 16週齢の満期産児20名について、背臥位での全身性自発運動を 2分間撮影した動画101本をデータ解析の対象とした。先 行研究に基づき、各MTMは1秒間継続することで出現と定義し、 1秒間で1回の出現とした。映像全体のMTM発生率と1分間あ たりのMTM発生率を算出し、後者についてはlower (下肢の運動)、upper (上肢の運動)、total MTMの3区分で算出した。その後、全ての映像に2D姿勢推定技術を適用し、得られた座標を用いて四肢と正中線との距離、両手関節と両足関節からなる四肢面積を算出した。また、身体中心点と両手関節からなる上半身面積、身体中心点と両足関節からなる下半身面積を算出した。統計解析では、手関節と足関節の正中線からの距離と、1分間あたりのMTM発生率との相関を算出した。さらに、各 MTM群 (lower, upper, total)内で、MTMを示した児とそうでない児の間における四肢面積、上半身面積、下半身面積の差を検討した。
【結果】
右手関節と正中線の距離と、total MTMの出現率、upper MTM ・total MTMの1分間あたりのMTM出現率に有意な負の相関が見られた。右足関節と正中線の距離、total MTMの出現率および1分間あたりの出現率に有意な負の相関が見られた。各MTM群内でMTMを示す児と示さない児を比較すると、lower MTMでは下半身面積と四肢面積、upper MTMでは下半身面積、 total MTMにおいては上半身面積で有意な差が見られた。
【考察】
MTM出現率およびupper MTMとtotal MTMの1分間あたりの出現率と、左手関節と正中線の距離の間には正の相関が認められた。一方、右手関節と正中線の距離には負の相関を認め、これは左の非対称性緊張性頸反射の影響と考えられた。MTMを示す児と示さない児の間で面積を比較すると、lower MTMについては四肢面積と下半身面積に有意差が見られた。これは、 lower MTMには両足を持ち上げて体幹に近づける動作が含まれているためと考えられた。total MTMでは上半身面積に有意差が見られ、これはHand-to-trunk contact (HT) の出現頻度と関連していると考えられた。upper MTMでは下半身面積に有意差が見られた。これは、非対称性緊張性頸反射によるものであると考えられるが、上半身面積では有意差が見られなかった。 upper MTMでは、両手を合わせる、片手を離すなど上肢の位置が様々であり、このことが上半身面積を変化させる要因となった可能性がある。MTMの定量化は、乳児の運動発達を評価する一助となり得る。本研究で用いた手法は、家庭において特殊な計測環境を必要とせず、また、遠隔で実施することができるため感染予防の観点からも有用であると考えられた。
【倫理的配慮】
本研究は東京都立大学荒川キャンパス研究倫理 委員会 (承認番号:21092)の承認後、対象者と代諾者には書面を用いて研究の概要を十分に説明し、同意を得た上で実施した。