2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 144
【はじめに、目的】
小学校の通常学級では7.7%の児童が学習または行動面で著しい困難を示すと報告されており、文科省より指導方法が示され特別支援教育体制の整備がなされてきた。そのような中、大西ら (2018、2019、2020)の研究において、小学生高学年児の協調運動とバランス能力の関係や、児童の行動特性と新体力測定との関連性が明らかにされている。一方、就学前の幼児については、5歳児で発達障害が発見された幼児が3歳児健康診査を通過していた報告があるなど、未だ充分な調査や支援体制が整っておらず、その実態が明らかにされているとはいえない。そこで、本研究では、幼児期における行動と運動特性の関係を明らかにし、保育時の適切な支援方法を探索した。
【方法】
A保育園に通う5歳児52名を対象に、行動特性とその背景にある運動特性の関連を調査した。実施時期は、202X年である。行動特性には、SDQ (Strengths and Difficulties Questionnaire)を用い、保育者に質問紙調査を実施した。質問内容は、行為の問題、多動/不注意の問題、情緒の問題、仲間関係の問題、向社会的な行動の 5 つの下位尺度、各5項目の計 25項目で構成されている。全ての項目について「あてはまる」、 「まああてはまる」、「あてはまらない」の3段階評定で行った。運動特性については、MKS幼児運動能力検査 (25m走、立ち幅跳び、ボール投げ、両足連続跳び越し、体支持持続時間、捕球の6種目)を用いた。分析は、MKSとSDQの間で相関分析を行い、相関の高い項目で正準相関分析を行った。
【結果】
多動/不注意の問題が、両足連続跳び越しと弱い正の 相関を示し、立ち幅跳びとは負の相関を示した。情緒の問題が、両足連続跳び越しや25m走と弱い正の相関を示し、立ち幅跳びやボール投げとは弱い負の相関を示した。仲間関係の問題が、両足連続跳び越しと正の相関を示し、立ち幅跳びとは負の相関を示した。第1正準変量では正準相関係数がr=.572で、両足連 続跳び越し、立ち幅跳び、25m走、ボール投げの順に仲間関係の問題への影響度が高かった。
【考察】
本研究では、幼児期の行動と運動特性の関係におい て、仲間関係の問題と運動との影響が明らかとなった。これは、文科 省の調査結果からの考察と合致している。MKSの体力総合評価結果が、多くの友達とよく遊んでいることや、友達が多いこととの関係性を示しているものであった。また、5歳児は、 自己中心的な世界から他者との関係を理解しはじめる時期であり、運動の特性と仲間関係の問題から発達的課題が窺える。特に、両足連続跳び越しのような「両足を揃えてつけて、10個の積木を1つ1つ正確にそして迅速に連続して跳び越す」「始め!の合図から、失敗せずに積木10個を跳び終わるまでの時間を測定する」課題にあっては、ルールの理解から始まり、身体機能面では、正常な筋緊張や身体感覚、視覚と運動の協調性、バランスなどが必要になる。保育者においては、これらの要素と行動特性から発達障害の可能性を視野に合理的配慮を含めた保育時の適切な支援方法の選択が促され、保育の質の向上や保育者の対応力の向上につながることが考えられる。
【倫理的配慮】
本発表にあたり、ヘルシンキ宣言に則って、保育園園長や保護者には主旨・倫理的配慮について書面および口頭にて説明し、同意を得た。