2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 52
【背景】
重症心身障害とは多様な障害像であり,生涯にわたり包括的な支援が求められている. 理学療法士は重症心身障害者を支援する代表的な専門職であり, 理学療法実践においても心身機能のみならず日常生活への参加を支援することが求められている. 近年参加に焦点を当てた多くのリハビリテーション研究が出版されており, 参加に影響を与える要因の特定や, 参加に焦点を当てた介入の開発が行われている. これらの研究のほとんどは海外で行われた研究であるものの, 我が国でもICFに根ざした測定ツールであるLife Inventory to Functional Evaluation for Individuals with Severe Motor and Intellectual Disabilities (以下 LIFE)の開発が進められており, 参加に焦点を当てた研究の基盤が整備されつつある. そこで本研究では, LIFEを用いて以下 2つの研究疑問を調査することとした. (1)施設入所する重症心身障害者の参加の状況を記述する. (2)彼らの心身機能と活動が重症心身障害者の参加をどの程度予測するかどうかを検証する.
【方法】
横断研究を実施した.対象は富田分類の基準に合致する 20歳以上の重症心身障害者とし,重症心身障害者施設Aの5つの異なる病棟から便宜的にサンプリングした. 各参加者を担当している理学療法士によってLIFEが実施され, カルテから人口統計学的情報が収集された. 全対象者のLIFEの「Part IV :生産的活動場面における参加」のスコアを従属変数とし, LIFE「Part I :生命維持機能」「Part II : 姿勢と運動」「Part III :日常生活活動場面における機能的活動」および人口統計学的情報を説明変数として重回帰分析を実施した.有意水準は5%とし, 分析には SPSS25.0を用いた.
【結果】
56名からデータが収集された. 内訳は男性31名,女性 25名であり, 年齢の中央値は31歳(SD:11.5), 入所歴は6年 (SD:2.3)であった. 富田分類1の参加者が77%, 2の参加者が 14% , 5の参加者が7%, 6の参加者が2%であった. 全参加者のLIFEスコアの中央値は, Part1で52%(SD:19) ,Part2で 22%(SD:24),Part3で11%(SD:5),Part4で15%(SD:7)であった. 重回帰分析の結果は年齢の標準化係数が-.278, 性別が.240, 入所歴が. 097, Prat1が .651, Part2が.140, Prat3が.015であり,年齢とPart1のスコアのみが有意であった. R2乗値は.347であった.
【結論】
本研究の参加者は生命維持機能や姿勢・運動機能に比べてLIFEの参加に関する項目では個人差が小さかったことから , 心身機能に関わらず参加の機会が保障されていた可能性がある. また, 入所施設においては, 認知機能や運動機能といった機能よりも, 生命維持機能が参加制限と関連していた. このことは , 生命維持機能の重要性を示唆している. 一方で, LIFEの参加に関する項目には医療的ケアの必要性に関する項目が多く含まれており, この測定ツールの内容妥当性が十分に検証されていないことを考慮する必要がある. また, 本研究では環境に関する変数が未測定であり, R2乗値が高くなかったことを考慮すると, 参加における環境の重要性を指摘する多くの先行研究と同様に,環境が重要な予測因子であった可能性がある. 今後は環境的側面にも考慮した調査を行うことで, より包括的に重症心身障害者の参加を理解することができる.
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり当法人の倫理審査員会にて承認を得た (2023-5-29).対象者へは本人または代理人に同意を得て,個人が特定されないよう配慮した