抄録
咀嚼障害にも直結する頭頚部の筋骨格系疼痛疾患は, 患者のQOLを著しく低下させるとともに, 有症状率が中高齢者を中心に高いことが知られている. しかしながらこれらの疾患患者の中には, 既存の治療法では対応できない症例も少なくない. また, 高額な医療費を要していることからも, 高齢社会を迎えつつある我が国において解決が急がれる疾患領域である. さらに, 全身健康に直結する分野であることや, 他部位の類縁疾患研究へも寄与することから, 歯科補綴学の普遍性に結びつくという点でも重要な研究領域である. これらの問題の解決には, 既存の診断・治療法を良質な臨床研究でその有効性を確認することにより, 現時点での治療効果を高める短期的な研究戦略に加えて, 診断・治療法の革新を目指し, 疾患の病態ならびに病態形成に寄与する因子を明確化する中長期的な戦略が重要と考える.
そこで本論文では, これまでの歯科補綴学で中心的に研究が進められてきた臨床生理学的研究成果等を基盤として, その病態解明や寄与因子とその役割を明らかとすることを試みる研究戦略を考えてみたい. さらに, これらの研究遂行にあたって期待される新技術や, 歯科補綴学の価値を高める新しい研究領域の開発についても考察し, これらの疾患に対する歯科補綴学の今後の研究活動に繋げたい.