抄録
固定性歯科補綴とは歯質欠損や歯の欠損を修復する科学である. その根底には機能的な咬合を回復することで「噛めるようにする」という目的がある. しかしながら, 近年の固定性補綴装置には, 患者の年齢や性別を問わず, 必ずと言っていいほど審美性の回復が求められる. 通常, 固定性補綴装置の製作では目標とすべき歯のモデルが既に口腔内に存在することが多く, 満足できる審美性の付与は難しい. これらの目的に対する研究は, 固定性補綴における「基盤研究」に位置するものであると推測される. 審美性を補綴的手法で回復するには, 一般的に陶材や前装用レジンのような歯冠色歯科材料を用いる. これらの材料は, 厚ければ厚いほど優れた機械的性質や審美性が期待できる. しかしながら, 材料を厚く築盛できる支台歯形成は「Minimal Intervention (MI)」の理念からはかけ離れたものである. 固定性歯科補綴の「創生研究」は, 審美性とMIのどちらかを優先するのではなく, その双方を満たす補綴方法に基づくものでなければならない. この二つは, 現状では未だ相反する要素であるが, 患者は間違いなく「削らずに美しくする」治療を求めており, それが臨床的なニーズである. 打開のためのストラテジーとしては, 新たな歯科材料と技術の創生に繋がる研究を推進することとなろう.