本研究は,若年成人期にがんと診断された男性がその後の人生をどのように生きぬいていくのかを明らかにすることを目的とした,現象学的アプローチを手がかりとする質的記述的研究である.6名の参加者の内,本論文では【がん患者である自己を複数の自己へと切り分ける】というテーマが導き出されたCさんの経験を記述した.
20代半ばにスキルス胃がんの診断を受けたCさんは,がん罹患後10年という経過の中で,“無限に患者状態”となってしまう現状から脱するために,がん経験者としての活動や仕事,家庭における自己を切り分けることで,在りたい自分へと向かうことができた.それによってCさんは,がんとパートナーになり共に歩んでいくという現在の生き方・在り方が可能となっていた.
彼らと関わる人々は,新たな自己を追い求める彼らに「がん患者」ということを押し付けることがないよう,彼らの多元的な自己の在り様に目を向け関わっていく必要性が示唆された.