2011 年 30 巻 2 号 p. 94-97
A型急性大動脈解離を発症した49歳の男性において,急速に進行する高乳酸血症を経験した。周術期は平均動脈圧60 mmHg以上を維持し,体外循環中も2.2 l/min/m2以上の流量が得られていたにもかかわらず,代謝性アシドーシスが進行しpH 7.127,血中乳酸値は26 mmol/lまで悪化した。炭酸水素ナトリウム静注や急速輸血を行ったが,術後まもなくショックから心停止となり,蘇生処置に反応しなかった。腹部大動脈の解離によって起こった肝,腎虚血が高乳酸血症の原因と考えられた。肉眼的には腹部臓器に異常は発見できなかったが,術中心機能評価のため挿入していた経食道心エコーを用いて,大動脈分枝の血流を観察できていれば,循環障害を早期に診断できた可能性がある。