2000 年 19 巻 1 号 p. 48-51
自殺目的でマラソンを服毒し, 呼吸障害が長期間遷延した症例を経験した。患者は56歳男性。意識障害, 呼吸不全で来院した。硫酸アトロピン, 2-ピリジルアルドキシムメチオダイドを投与し, コリンエステラーゼ値の回復に伴い全身状態は改善したが, 間欠的に意識障害・縮瞳・血圧低下を伴った自発呼吸消失がみられ, 約2週間にわたり繰り返した。これは有機リン中毒のintermediate syndromeと考えられ, 服毒量が多く, 腸管内に長時間残留していたためと思われた。本症例のように長期間にわたり自発呼吸が突然消失する状態を繰り返した報告はこれまでにない。有機リン中毒では急性期以降も呼吸状態に十分な注意が必要である。