毛包腫は,顔面に好発する皮膚付属器腫瘍の濾胞性分化を伴う良性腫瘍である。皮膚腫瘍に分類され皮膚科領域での報告は散見するが,耳鼻咽喉科領域での報告は少なく,鼻腔発生の毛包腫は稀である。症例は54歳の男性で主訴は左鼻閉である。5年前から左鼻前庭部に腫瘤を自覚し,徐々に増大した。現症では左鼻前庭部の11時方向に基部を持つ有茎性,弾性硬の径16mmの腫瘍を認めた。単純CT所見では同部位に表面平滑な軟部陰影を認めた。単純MRI所見ではT1強調で等信号,一部に高信号を示し,腫瘍と皮下組織との境界には低信号域があり皮下組織への浸潤は認めなかった。鼻閉の改善ならびに診断確定目的に,全身麻酔下での腫瘍摘出術を行った。術中所見では,腫瘍は皮下直下に存在し,左大鼻翼軟骨と接していたが癒着はなく,鈍的剥離が可能であった。病理所見では,表面部に陥凹を示す中心小窩を呈し,表皮に開口した毛包漏斗部構造を認めた。皮膚に開口する一次毛包構造と,それに連なる多くの二次嚢胞を認め,毛包腫と病理学的に診断された。現在術後3年が経過するが,再発を認めていない。毛包腫は外科的切除が適応になる疾患であり,鼻腔診察の際には念頭に置いておくべき疾患であると考えた。