日本鼻科学会会誌
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原著
指圧マッサージ施行後にPott’s puffy tumorを呈した成人例
小山 美咲木下 淳堀切 教平岸本 めぐみ菊田 周近藤 健二
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2020 年 59 巻 2 号 p. 165-171

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抄録

Pott’s puffy tumor(以下PPT)とは前頭骨骨髄炎に伴い前額部に皮下膿瘍を形成し,腫瘤状の軟らかい腫脹をきたす疾患概念である。2000年以降,本邦における成人発症のPPTの報告は8例のみであり,今回我々は指圧マッサージを契機にPPTに至ったと考えられた成人例を経験したため,文献的考察を加えて報告する。症例は64歳の男性。受診1か月前より頭痛を自覚し,数日後に前頭部の指圧マッサージを強めに施行した後から,右前額から上眼瞼周囲の腫脹,疼痛が出現した。既往に未治療の糖尿病があった。受診時のCTおよびMRI検査では右上顎洞,篩骨洞,前頭洞に軟部組織陰影を認め,さらに前額部皮下・前頭洞骨膜下の膿瘍形成,前頭骨の腐骨様変化,右前頭洞内の石灰化病変とそれに伴う前頭洞前後壁の骨欠損,頭蓋内への炎症波及を認めた。頭蓋内合併症を伴ったPPTと考えられ,受診同日に右眉毛部切開で皮下膿瘍排膿を施行し,内視鏡下に副鼻腔を開放した。術後は抗菌薬投与に加え,感染巣の洗浄を連日行った。術後18か月が経過しているが,再燃は見られず治療経過は良好である。PPTの発症数は近年では抗菌薬使用により減少しているが,成人発症のPPTでは易感染性を示す基礎疾患を伴うことが多く,時に頭蓋内感染症から致死的となりうる。疾患概念を認識し,早期の診断と治療を行うことが重要である。

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