日本農村医学会雑誌
Online ISSN : 1349-7421
Print ISSN : 0468-2513
ISSN-L : 0468-2513
原著
高齢者の生活・いのちを守るためにできること
高齢者虐待の事例からMSWの役割について考察する
小林 宏美杉村 龍也片寄 智香子八木 隆太森 京子夏目 洋介天野 千晴
著者情報
キーワード: 高齢者虐待, MSW, 人権擁護
ジャーナル フリー

2016 年 65 巻 2 号 p. 188-195

詳細
抄録

 高齢者虐待は身体的虐待,世話の放任・放棄(ネグレクト),心理的虐待,性的虐待,経済的虐待の5つの行為に分類されており,家庭内の問題にとどまらず社会的問題として認識されている。  平成22年度から平成25年度に対応した高齢者虐待の事例から,これらの問題に対応する医療ソーシャルワーカー(以下MSW)の在り方について検証し考察した。また,児童虐待の事例との比較から,高齢者虐待の特徴を検証した。  当院で対応した高齢者虐待の事例の特徴は,①介護保険サービスの利用が不十分,②虐待者が認知症や精神疾患などの障害を抱えていた,③被虐待者や家族が経済的問題を抱えていた,というものであった。一方,児童虐待との比較では,児童虐待はMSW介入時にすでに関係機関が対応している事例が多く,病院内で発見される事例は44%にとどまるのに対し,高齢者虐待は70%が病院内で発見されていた。また,児童虐待は虐待者との分離を行なった事例が52%にとどまるのに対し,高齢者虐待は81%で分離を行なっている。これは,児童虐待は病院内周知が徹底されているため,グレーゾーンのものも事例として挙がってきやすいのに対し,高齢者虐待ははっきりと“虐待”とわかるような重度な事例しか挙がってこないことが要因として考えられる。  今後,診療に携わる医師や看護師が確実に“虐待”を発見できるよう,またMSWが高齢者虐待の要因である,被虐待者の認知症状や経済的問題,虐待者の障害や経済的問題,介護ストレスを早期に解決できるよう,MSWには虐待対応の仕組みづくりや病院内への周知がより一層求められると考える。

著者関連情報
© 2016 一般社団法人 日本農村医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top