抄録
人生の最終段階における医療方針の決定において,患者の意思を尊重した望ましい医療を検討する基礎データの作成を目的として,人口約35,000人,高齢化率40.7%(2017年)の地域住民243名と医療従事者282名を対象とした意識調査を行なった。その結果,人生の最終段階における医療の選択に関して,リビングウィルの作成には賛成だが,実際には作成はしていないことが明らかになった。また,人生の最終段階において地域住民の66.7%,医療従事者の85.9%が「自宅で過ごしたい」と回答した。地域住民の24.0%が,入院での療養や看取りを期待すると回答した。理由として人生の最終段階に行なわれる医療がイメージできないことによる不安や,家族への介護負担に対する配慮などが多かった。治療の選択として,抗がん剤や放射線治療,点滴に関して地域住民と医療従事者に有意差はみられなかったが,中心静脈栄養,経鼻栄養,胃ろう,人工呼吸器,蘇生処置を望んでいる医療従事者は地域住民に比べて,有意に少ないことがわかった。患者の意思を尊重した人生の最終段階における医療を実現するためには,医療従事者が個々の患者の人生観や価値観などを把握し,治療の選択に関する地域住民への情報提供や自己決定を支援する体制づくりが必要であると思われた。