日本農村医学会雑誌
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綜説
大気汚染と慢性腎臓病
永井 恵
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2023 年 72 巻 2 号 p. 47-57

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抄録
 慢性腎臓病は,3か月以上持続する腎機能障害あるいは蛋白尿を呈する疾患であり,世界的にその患者数は増加している。近年,慢性糸球体腎炎,糖尿病や高血圧といった既知の慢性腎臓病の原因の他,これまでの日本の疫学研究では触れられてこなかった地球環境の変化による慢性腎臓病の発症リスクも海外の報告から指摘されている。2015年の世界の年間推定死亡者数は,5,580万人であるが,そのうち大気汚染は,640万人の死亡に何らかの関連をしていた可能性が推測されている。代表的な大気汚染物質として粒子状物質(Particulate matter:PM),二酸化硫黄,二酸化窒素,一酸化炭素,オゾンが挙げられる。心血管病と慢性腎臓病は生体内で連関し,共通の機序で発症および進展する。疫学的研究からPM2.5を代表とする大気汚染による循環器疾患の存在は国内外で明らかにされたが,慢性腎臓病に関しての研究は少なく,2020年代にようやく国外の数か国において総体的なエビデンスとなってきた。それでもなお,日本から発出される大気汚染と慢性腎臓病に関するエビデンスは皆無である。特に,日本において汚染物質のうち唯一濃度上昇が続くオゾンについては,諸外国の解析結果から,慢性腎臓病のリスクとなる可能性も示されているため注目して解析される必要がある。
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© 2023 一般社団法人 日本農村医学会
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