日本農村医学会雑誌
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72 巻, 2 号
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綜説
  • 永井 恵
    2023 年 72 巻 2 号 p. 47-57
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー
     慢性腎臓病は,3か月以上持続する腎機能障害あるいは蛋白尿を呈する疾患であり,世界的にその患者数は増加している。近年,慢性糸球体腎炎,糖尿病や高血圧といった既知の慢性腎臓病の原因の他,これまでの日本の疫学研究では触れられてこなかった地球環境の変化による慢性腎臓病の発症リスクも海外の報告から指摘されている。2015年の世界の年間推定死亡者数は,5,580万人であるが,そのうち大気汚染は,640万人の死亡に何らかの関連をしていた可能性が推測されている。代表的な大気汚染物質として粒子状物質(Particulate matter:PM),二酸化硫黄,二酸化窒素,一酸化炭素,オゾンが挙げられる。心血管病と慢性腎臓病は生体内で連関し,共通の機序で発症および進展する。疫学的研究からPM2.5を代表とする大気汚染による循環器疾患の存在は国内外で明らかにされたが,慢性腎臓病に関しての研究は少なく,2020年代にようやく国外の数か国において総体的なエビデンスとなってきた。それでもなお,日本から発出される大気汚染と慢性腎臓病に関するエビデンスは皆無である。特に,日本において汚染物質のうち唯一濃度上昇が続くオゾンについては,諸外国の解析結果から,慢性腎臓病のリスクとなる可能性も示されているため注目して解析される必要がある。
原著
  • ─過疎化・人口減が著しい地域の社会福祉法人を対象に─
    田中 康雄
    2023 年 72 巻 2 号 p. 58-68
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー
     本研究は,社会福祉法人の職員を対象とした職場における短時間面接を行ない,面接前後を比較し,主観的ストレスとしての気分状態の軽減効果の有無を検証することを目的とした。離職との関連性が報告されているストレスにおいて,職場内で短時間かつ容易に取組み可能な具体的ストレス軽減策の有用性が認められれば,社会福祉法人での離職対策がよりわかりやすくなると考える。調査は,B社会福祉法人に所属する67名の職員を対象とした。面接は,それぞれ20分間の1対1形式で,調査対象のB社会福祉法人に所属外の社会福祉士が実施した。面接の前後に,主観的ストレスとしての気分状態を把握するPOMS2短縮版を用いた質問紙調査を行ない,面接の効果を検証した。その結果,面接後に,ネガティブな感情の【怒り─敵意】,【混乱─当惑】,【抑うつ─落込み】,【疲労─無気力】,【緊張─不安】,【総合的気分状態】のすべての尺度で,有意な低下がみられ,一方,ポジティブな感情の【活気─活力】,【友好】のすべての尺度で,有意な増加がみられた。以上の結果から,本研究では,社会福祉法人の職場内において,短時間の面接を行なうことがストレス対策として有用であるという根拠を示した。短時間の面接法は,費用面も抑えられ,様々な社会福祉法人にて比較的容易に活用できる可能性があり,組織として取組む社会福祉従事者の離職防止対策の一助につながると考える。
  • ─組織アイデンティティ浸透を目的とした研修会に対する評価─
    三井 千鶴, 三浦 崇則, 稲垣 久美子, 織田 智治, 犬塚 斉, 藤永 一弥, 度会 正人
    2023 年 72 巻 2 号 p. 69-78
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー
     当院は,組織および職員が地域の医療に貢献するために,基本理念,組織風土ならびに組織アイデンティティを重要視してきている。さらに我々はこれらの浸透を目指した職員教育を計画的に実施している。しかし,我々はこれまで,これらの浸透度を確認したことはない。本研究は,組織アイデンティティに関する研修内容に対する浸透度をアンケート調査で明らかにすることを目的に計画された。
     研修前アンケート回答者は,全職員1,696名中1,418名であった。研修参加者数および研修後アンケート回答者は,1,016名であった。研修前アンケートで「地域での使命を理解」(以下,使命)を‘理解できている・概ね理解できている’と回答した割合(以下,浸透度)は53.9%であった。これに対して,研修後におけるアンケートで「使命」を理解できた・概ね理解できたと回答した割合(以降,理解度)は84.0%であった。研修前アンケートで「地域での役割」(以下,役割)の浸透度は53.8%であった。また,研修後の「役割」の理解度は85.5%であった。さらに,「プロジェクトの意義」(以下,意義)の浸透度は48.3%であった。これに対して,研修後の「意義」の理解度は82.3%であった。他方で,本研修による組織アイデンティティの理解度は,職種により異なることが明らかとなった。
     2012年に実施した「組織アイデンティティ研修」に対する7年後の浸透度は約50%であり,組織アイデンティティの浸透の難しさを示している。他方で,本研修は,組織アイデンティティに対する理解を向上させるために効果的であった。しかしながら,その理解は職種により違いが認められ,理解や職種に合わせて柔軟に対応できる研修プログラムの必要性が示唆された。
症例報告
  • 安藤 美貴子, 桃原 祥人, 嶋田 未知, 石川 郁乃, 瀬賀 雅康, 倉富 由理, 小野瀬 萌子, 谷田部 菜月, 秋田 真友, 梅木 英 ...
    2023 年 72 巻 2 号 p. 79-83
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー
     当院は第一種感染症指定医療機関であり妊娠35週以降の分娩を取り扱う地域周産期母子医療センターである。当院を受診したCOVID-19 PCR陽性妊婦40例について検討した。内訳は妊娠初期2例,中期7例,後期31例(37週以降18例)であった。当初は全例入院とし,2021年8月以降は軽症かつ37週未満の症例は自宅療養とした。入院とした症例は28例で,入院中に当院で分娩に至った症例は10例,うち帝王切開が1例,経腟分娩が9例だった。COVID-19が適応で妊娠終了を要した例は3例で,1例が緊急帝王切開,1例が34週のため他院に搬送し緊急帝王切開,1例は分娩誘発し経腟分娩となった。治療介入は5例だった。全症例を通じて医療従事者への2次感染はなかった。治療介入により症状が軽快する症例もあり,COVID-19症状,産科適応などを考慮し経腟分娩も選択できると考えられた。
看護研究報告
  • 龜山 千里, 小室 悦子
    2023 年 72 巻 2 号 p. 84-90
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/31
    ジャーナル フリー
     新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019,以下,COVID-19)流行期に当院新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit,以下,NICU)にて退院前母子同室支援(以下,母子同室支援)を行なった母子および母子同室方法の特徴を明らかにするために,NICUに入院した児のうち,母子同室支援を行なった22人を対象に後方視的に調査を行なった。乳児の疾患は低出生体重児が13人(59.0%)と最も多かった。平均出生体重(平均±標準偏差(SD),以下同様)は1,950±962gで,第1子が17人(77.3%)と最も多かった。平均NICU入院日数は85±103日であり,入院日数が6か月を超える長期入院児が2人であった。母親の平均年齢は32±6歳であり,NICU入院時点で既婚が20人(90.9%)であった。母子同室支援の実施理由では,「育児支援」が6人(27.3%)と最も多かった。「育児不安」は虐待のリスクと有意な関連があった。また小児病棟転棟後に母子同室となった母子とNICU退院前に母子同室となった母子とでは,母親の年齢以外に有意差はみられなかった。本研究の結果から,COVID-19流行期は,特に低出生体重児を出産した,高年齢,初産の母親に対し,育児支援を強化していく必要性が示唆された。さらに新興・再興感染症の流行の際には,小児病棟転棟し母子同室支援を実施できる可能性を見出した。
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