抄録
本研究の目的は,健康診査のメタボリックシンドローム(以下MetS)のリスクを業種別に検討することである。そして,保険者が被保険者の健康状態の改善や慢性疾患の予防を効果的に行なうための保健事業のターゲットとすべき業種の優先度を明らかにすることである。2015年4月1日から2016年3月31日までに全国健康保険協会福岡支部の健康診断を受診した被保険者を対象とした。分析に使用したデータは,健康診断で測定されたBody Mass Index,腹囲,血圧,中性脂肪,HDLコレステロール,空腹時血糖(ない場合はHbA1c),及び質問紙票の薬物治療の状況である。これらの結果から,腹囲に加えて血圧・脂質・血糖のうち2項目以上該当する場合をMetSリスクとして算出した。業種別にMetSリスク保有率,相対リスク比を算出した。次にMetSリスクの保有の有無を目的変数,業種を説明変数とし,性別,年齢,所得で調整したロジスティック回帰分析を行なった。MetSリスクが有意に高かった業種は,運輸業・郵便業(オッズ比odds ratio OR:1.30;95%信頼区間confidence interval,CI:[1.21-1.38]),建設業(OR:1.07;95%CI:[1.01-1.15])であり,男性,50歳代以上の年齢区分,個人の標準報酬月額が35万円以上のカテゴリでリスクが高い傾向が認められた。保険者は健診結果から,保健事業のターゲットとすべき業種の優先度を明らかし,職場環境へのアプローチと個人への生活習慣改善へのアプローチの両方に焦点を当て,戦略的な保健事業の展開を考えることが必要である。