日本農村医学会雑誌
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研究報告
農薬と生態系
─浸透移行性殺虫剤を中心に─
伊澤 敏栁澤 和也浅沼 信治大浦 栄次安藤 満
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2025 年 74 巻 2 号 p. 92-102

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抄録
 目的:浸透移行性殺虫剤の生態系リスクに関する文献を概観し,今後の調査・研究の方向を展望した。
 方法:国際連合食糧農業機関(FAO),国立環境研究所,農林水産省のホームページから農薬の出荷量など基本的なデータを収集。文献検索サイトPubMedおよびJ-Stageにて,キーワード(Pesticide,Insecticide,Neonicotinoid,Systemic Insecticide)を用いて文献検索した。
 結果:FAOの推計によると,2021年の国内の単位面積当たりの農薬使用量は11.2kg/haであり,統計のある184か国中14番目に多い。国内の殺虫剤出荷量は全体としては年々減少しているが,ネオニコチノイドをはじめとする浸透移行性殺虫剤の出荷量は横ばいである。浸透移行性殺虫剤は全国各地の河川,沿岸部の海水などから広く検出されている。国内の水田における殺虫剤の生態系リスクは主に有機リン系殺虫剤の使用減により近年減少しているとされているが,欧米では浸透移行性殺虫剤とハチ類の減少との関連が示唆され,国内では同薬剤がアキアカネの減少に関与していたと報告されている。浸透移行性殺虫剤に対する国内の残留農薬基準は他国に比して緩やかであり,生態系への悪影響が懸念される。
 結論:浸透移行性殺虫剤を含む農薬は,基本的に生物毒性を有することから生態系リスクを免れない。農薬による健康被害の防止に加え,生態系への悪影響防止を目的とする調査・研究は,プラネタリーヘルスの観点からも重要な意義を有する。
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© 2025 一般社団法人 日本農村医学会
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