抄録
糖尿病治療の基本は, 血糖コントロールにあることはいうまでもない。しかし長期にわたり理想的にコントロールすることは, 極めて難しい。そのため, 神経障害, 網膜症, 腎症などの合併症が問題となる。その中でも神経障害は, ポリオール (ソルビトール) 代謝障害が成因の1つであると考えられている。その症状は比較的早期より発症し, 罹病期間が長くなるにつれて高い併発率を示し, 組織が広く障害された患者の苦痛は計り知れない。そこで発症メカニズムに沿ったアルドース還元酵素阻害剤のepalrestatについて, 神経障害自覚症状, 赤血球内ソルビトール値, 振動覚閾値の3点から効果を見た。
[対象] 自覚症状として自発痛・感覚異常・自律神経障害が持続的に認められるか, 赤血球内ソルビトール含量, 振動覚閾値に異常が認められる外来治療中の患者でepalrestatを1回1錠50mgを食前に6か月以上服用している男性7名, 女性4名を対象とした。期間は平成4年10月から平成5年3月までとした。[方法] 自覚症状については, 患者に主旨を説明し承諾を得て薬の待ち時間内に医薬品情報管理室で, 赤血球内ソルビトール含量, 振動覚閾値に関しては, 患者カルテから調査した。[結果とまとめ](1)(自覚症状改善度) 《自発痛》 …75.0%《感覚異常》〈手足のしびれ感〉…57.1%〈手足の先の冷え〉…40.0%〈ほてり〉…33.3%〈感覚鈍麻〉…75.0%〈かゆみ〉…50.0%《自律神経障害》〈立ちくらみ〉…75.0%〈発汗の異常〉…33.3%(2)(罹病期間からみた効果) 罹病期間の短い程, 改善度は良好であった。(3)(赤血球内ソルビトール値改善度) 全体に見てあまり改善度は良くなかった。(4)(振動覚閾値改善度) 全体的に見てかなりに改善された。糖尿病性神経障害は, 比較的初期の段階からみられ原因としては, 慢性的高血糖状態が最も重要な因子であると考えられている。血糖値の是正が治療において重要であると思われるが, 是正されない状態では, 今回の結果からepalrestatの投与は, 症状の改善を示し罹病期間の短い程, 改善度が良好であったことから, できるだけ発症早期に投与することにより患者の苦痛を和らげることができると考えられる。