1997 年 35 巻 9 号 p. 1025-1028
症例は74歳, 男性, 高血圧にて外来経過観察中に胸写上異常陰影を指摘された. 胸腺腫の診断で平成7年7月6日に拡大胸腺胸腺腫摘出術を施行した. 腫瘍は前縦隔に存在し, 相接する2個の独立した腫瘍から成っており, 各々胸腺の左葉上極及び右葉下極に存在した. 前者は左腕頭静脈上に, 後者は右胸腔へ向かって発育し少量の結合織で結ばれてはいるものの互いの連続性は無かった. 病理診断は共に Lymphocytic thymomas であった. 本症例は多発性胸腺腫と考えられ, 胸腺腫が多中心性に発生しうる事を実証するものである. 従って胸腺腫の手術に際しての拡大胸腺摘除の妥当性を示唆するものと思われたので報告した.