2007 年 68 巻 7 号 p. 1844-1848
症例は77歳の男性で, 平成18年9月, 乗用車を運転中に操作を誤り路外へ転落し, 当院搬送となった. 左肋骨, 左橈骨, 左中手骨骨折をみとめ当院整形外科に入院. 腹痛が出現し右鼠径部痛が増悪したため当科に転科した. 下腹部を中心に筋性防御, 反跳痛が出現し, 右鼠径の膨隆部には発赤も出現したため腹部CTを施行した. 肝表面に遊離ガス像, 腹水を認め, 消化管穿孔による汎発性腹膜炎, 右鼠径ヘルニアの診断にて緊急手術となった. 回腸末端より約50cmの回腸に径約1cmの穿孔部を認め, 右鼠径部のヘルニア嚢より膿汁が腹腔内に流出していた. このことから, 鼠径部ヘルニア嚢に脱出した回腸が穿孔したものと考えられた. 手術は回腸穿孔部を縫合閉鎖し, 右鼠径ヘルニアを修復した. 腹腔内圧上昇による鼠径ヘルニア嚢内消化管穿孔の本邦報告例は自験例を含めて17例と稀で, 鼠径ヘルニアの合併症として一般には知られていない病態であり報告する.