症例は60歳,女性.左下腹壁腫瘤を触知し,当院を受診した.腹部超音波検査や腹部CT検査などで,左腹直筋内に直径4.0cm大の腫瘤を認め,大網や周囲への炎症の波及もしくは浸潤が疑われた.生検で放線菌症と診断され,腹壁腫瘤摘出術と直下に癒着していた大網を部分切除したが,腸管の関与や腹腔内の炎症所見は認めなかった.培養ではKlebsiella oxytocaのみが検出されたが,病理組織学的検査で線維化を伴う肉芽腫と菌塊などを認めたため,放線菌症と診断した.腹壁放線菌症は,本邦での報告は自験例を含めて16例と比較的稀な疾患であるが,生検による術前診断も可能であり,腹壁に炎症性腫瘤を認めた際には,本症を念頭におくことが必要である.また,外科的切除が基本であり,それとともに,混合感染も考慮した抗生剤の選択が必要であると考えられた.