日本臨床外科学会雑誌
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<<第71回総会会長講演>>
求められ,応えられる外科医を目指して
谷川 允彦
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2010 年 71 巻 7 号 p. 1701-1707

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抄録

新臨床研修制度の影響を強く受けて,外科の門をくぐる若手医師の数は減少してきており,外科医療の崩壊も一部に危惧されている.これに至った問題点を明確にして,どのような解決法があるのかを検討することを本学会総会の一つの目的としているが,こうした状況においては若手外科医の教育,人材育成がさらに重要である.そうした意味合いから本メインテーマを表記のようにしている.臨床外科医に求められていることはまさしく「高度な手術技能と知識を備えていること」であり,また同時に「豊かな人間性を備えていていること」が,その付託に応えられる必要条件となる.このような外科医をどう育成していくのかがまた,指導者たちには求められている.
大阪医科大学外科学教室は一般・消化器外科学教室となった昭和51年より35年の歴史を持つが,その間の手術の内容と実数の年次的推移を検討すると各臓器疾患において,ことに近年に至って増加傾向が顕著である.これらは乳癌に対する乳房温存手術,食道癌に対する術前・術後化学放射線療法の導入,胃癌・大腸癌・胆嚢・一部の肝・膵疾患については内視鏡外科の積極的導入など治療の低侵襲化が大きく関与してきた.悪性腫瘍を主として対象にするだけに,手術方法の変更は腫瘍学的裏づけの確認が必要であり,同時に,新規の手術方法の習得に向けた系統的教育・訓練カリキュラムの実践が重要である.そうしたわれわれの努力は全国規模の内視鏡外科セミナーの定期的開催や,国際的先進施設群との交流とe-learning 用の内視鏡外科教材WebSurgの協調開発などに結びついてきた. こうした手術手技の教育環境の成果であろうか,現在まで11名の日本内視鏡外科学会技術認定医が教室関係者から誕生している.
“医療は進化を続けており,常に次世代に向けた過渡期にある”とされている.当教室の外科治療の変遷をみても,それは明確であり,そうであるなら次世代の外科学も現状の継続であるとは考えられない.内視鏡外科学の近未来についてはNOTESや単孔式手術が注目され,またロボット手術など医用工学の発展に裏付けられた近代外科学の到来も遠くないことが考えられる.外科技能と精神性など臨床医として求められる要件を指導しながら,正しい将来予測のもとに次世代につながる外科医達を養成することがわれわれの大切な務めであると感じている.

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