2013 年 74 巻 6 号 p. 1516-1522
症例は59歳の男性で,心窩部痛を主訴に近医を受診し内視鏡検査で胃前庭部の全周性腫瘍を認め,当科に紹介となった.Alpha-fetoprotein(以下AFPと略記)値が異常高値であり,CTでは肝左葉の巨大な腫瘍と門脈左枝から本幹に至る広汎な腫瘍栓を認めた.姑息術として幽門側胃切除術と肝生検を施行し,病理検査にてAFP産生胃癌と肝転移との診断を得た.また原発巣の一部に神経内分泌癌の胞巣の混在を認めた.術後よりCPT-11/CDDPを施行し,6回投与時点でAFP値は正常化し,10回投与時点で肝転移巣と門脈腫瘍栓は著明に縮小した.以降化学療法は施行せず胃切除術後3年10カ月現在,再発所見なく生存中である.門脈腫瘍栓を伴うAFP産生胃癌肝転移に対する全身化学療法単独での長期生存の報告は,検索しえた限り本邦初例で,神経内分泌癌の混在を認めた点でも示唆に富む症例であり,文献的考察を加え報告する.